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一旦歯磨きをしに行ってまた食堂へ行くと、食事の場にはこんのすけしかいなかった。
けれど主は厨房にいると教えてくれたからこんのすけも一緒にきいてもらっちゃおう、とふさふさの毛並みに触れて拾い上げた。
やっと会えた主の姿にほっとしたのも束の間、少し緊張をしながら真剣のこときいてみたんだ。
そしたら長谷部も鍛錬についてくれると言ってくれたし、主からも無事に許可を得た。


それで実際にやってみるときがきた。
あらかじめ道場で入念に準備運動しておいた。
袴の上から手甲も装着した。

この手甲、主に顕現してもらったときとこの本丸に移ってきたときしかしてないんだよなー。
初めて実用するそれを眺めていると、内番を終えた長谷部が自身の刀身を片手に庭へとやってきた。
まずは新選組のみんなからどの程度学べたかを見てくれるようだ。

「準備ができ次第抜け、そして向かってこい。安心しろ、まずこちらは受けるのみだ」
「清光、長谷部は機動がピカイチだよ。大振りすれば後ろを取られる可能性が高い」
「うーん、まだ三段突きとかやってる余裕ないよー・・・」
「まっ、実践あるのみさ!お前なりにやって来い、清光」
「うん、ありがとう長曽祢さん。行ってくる」

深呼吸をひとつして腰にある己へ手をかける。

深みのある艶やかな鞘から抜いた刀身を両手で握り、庭の砂利を鳴らして長谷部の元へ走り込んだ。





「どうした清光!後ろに下がりっぱなしだぜ!」
「くそ・・・」

物凄く悔しいけど汗ひとつ掻かず涼しい顔をした長谷部は、相手が軽く攻撃する分には問題ない実力だと認めてくれた。だから今は和泉守相手に己を振るう。

何年振りに聞く、刃がぶつかり合う音。けれど俺に懐かしむ暇などない。受け止めるのも間に合わず隙を見せてしまう度に傷を負っていく。

「ほらその癖!どうにかしねぇと本丸に帰って来れなくなっちまうぞ!」
「痛っ・・・!」

流石鬼の副長さんだった刀、容赦ない和泉守の攻撃で深い傷を負ってしまった。

斬られた脇腹が焼けるようにあつい。
息が上がり集中力も途切れてくる。
困ったな、瞬きする暇もない。

「傷、触ると手が滑りやすくなるからな」
「まだまだ!そこ!」
「何?!」

傷を庇いつつ真っ直ぐに突っ込み、喉元を狙う。
そう、俺は僅かな隙をみつけた。

「!?」

でもだめだった。
ギリギリのところで相手に気付かれる。

そして刀を構えきれなかった和泉守の拳が飛んできた。

その衝撃は視界で火花が散るように見え、ばきっていやな音が鼓膜いっぱいに響いた。

反動でよろけ、なんとか立ち上がったままいるけれど己の刀身は手から抜け落ち地に転がったみたいだ。
みたいだっていうのも、そんなの全然目視していられないほどの激痛にしかめっ面してるから。

辛うじて開けられた片目には、ぼたぼたと勢いよく流れてるそれで地面が赤く染まっていくところ。

「あ、鼻血」

静寂の中で安定の淡々とした声が妙に大きく聞こえ、そのあとみんなが一気に慌てだす。

「大丈夫ですか!?たぶん鼻の骨折れましたよね・・・」
「わっ、悪い清光!まさか向かってくるとは思わなくてだな」
「もー!兼さん、やり過ぎだよ!」
「安定、あれは大丈夫なのか?動かなくなった」
「んー。折れたかもね、心」

・・・なに?
俺、拳に負けたの?
ダサ過ぎる。しかもすんごい痛いし。

「加州、先に手入れ部屋へ行っていろ。主を呼んでくる」
「・・・・・・無理」
「は?何を言って」
「無理!こんな姿、主に見せられないー・・・!」

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