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また夢を見ていた気がする。

自分の記憶じゃないからたぶんこれが夢というものだと思うんだけど、起きると全然覚えてないのはなんでなんだろう。

ま、別に気分が悪くなるような内容じゃないし特別困りはしないかな。

そんなことを考えつつ、今日も安定にまだかと急かされもうちょっとと宥めて髪を結う。

「うーん、主がくれた鏡すごくかわいいし持ち歩けてお気に入りだけど髪を結うのはちょっと大変」

折り畳み式の小さな鏡に一生懸命自分自身を映り込ませる。
大きな鏡のある洗面所は混み合っていて使えそうもない。主の部屋に行くのはボサボサな姿を見られたくないから却下。
ちなみに和泉守は堀川がお世話してくれるからあの長髪自分じゃなーんにもしていないんだって、いいよね。

「そういえば前のお前も鏡持っていたけど。机に立てかけて使ってた、このくらいの・・・あれ?そういえばどこいったんだろう」
「鏡もあったの?私物はこの櫛だけだと思ってた」

頭を掻きながら押し入れの戸に手をかけ、共有の小物入れから探してくれている安定。
確かそこにはいろいろな物が入っていた。粟田口の短刀が俺たちに似せて作ったてるてる坊主、どんぐりに松ぼっくり、押し花。すべて俺じゃない加州清光がこの本丸で作った想い出の品々だ。
俺もそのひとつひとつを見せてもらったけれど、鏡なんてなかったと思う。

「その櫛は江雪が作ってくれた物なんだよ。鏡はさ、まだこの本丸ができて間もない頃前の主におねだりしたらしいよ?・・・おかしいなー、ないわけないのに」
「へー、それなら失くすとか考えにくいどね。でもいいよ、俺は俺の主に貰ったのを大事にしたい」
「清光ばかりずるい。僕も何か欲しいな」
「くるみを新しい主に迎えてすぐめぐりずむ貰ったじゃん」

安定は1度切りしか使えずしかも使ったら捨てろって言われたじゃないかと尚更拗ねてしまった。
安定だって前の審神者におねだりしたらよかったのに。でも、安定って何が欲しいんだろう?

「よーし結えた。お待たせ」

俺が大切にしている鏡を仕舞って廊下へ出た。並んで歩く安定は俺のことをちらちらと見てくる。

「何?」
「清光がくるみって呼ぶの珍しい」
「あー、でも本人前にはまだ言えない。特別なときだけそう呼ぶって決めたんだ」
「なにそれ、願掛けか何か?」


そもそも安定が主をくるみって呼ぶとは思ってなかったし、他にも名前呼びする奴はいる。したがって本来の目的から逸脱していて必要のない約束となった。


「半分『主』って名前だと思ってきてる自分がいるの。おかしい主でしょ」

「じゃあ出陣とかない日、非番のときはくるみって呼ぶのは・・・駄目かな」

「・・・いいよ、それなら名前を忘れないで済むね。ありがとう清光」



主、覚えてるかな?

まー、大した約束だと思ってないかもしれないけど・・・

俺にとって初めての約束だから。

自己満足でもいいから叶えたいな。


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