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鶴丸、大倶利伽羅、膝丸の手入れは各々そう時間は掛からなかった。
他のみんなも過剰に気を遣わなくてもわたしが十分に手入れができると判断し、五虎退の着替えやタオルを持ってきたり部屋の出入りをし始めていた。

秋田はわたしにもホットタオルを手渡してくれたのだが、受け取ったつもりだったのに手指に力が入らず床に落としてしまった。

「・・・あ、ごめんなさい」
「いえ、お疲れさまでした主君」

自分で拾い上げる前に秋田がそれで手を拭ってくれる。
じんわりと熱が伝わると同時に、乾いた血液がふやけて鉄のにおいを漂わせていく。

「主、顔色が悪いですね。少々休まれた方がよろしいかと」

食事も部屋にお持ちします。たぶん長谷部が、そう言っていたと思う。
きれいな藤色の瞳が真っ直ぐ私に向けられていた。
けれど急にまぶたを開けていられなくなり、わたしの意識はそこで途切れた・・・。





「・・・・・・」

「主!起きた!?」
「くるみ!」

重たいまぶたを次に動かすことができたのは自らのベッドで横になっているときだった。

目を腫らした清光と安定が飛びついてくる。
ベッドの揺れで酔ってしまいそうだったが、何よりも全身が鉛のように重たくて言葉も発せない。

こわかった、とわんわん泣くふたりにやっとの思いでごめんと返す。

「こんのすけがね、主は少し寝たら起きるって言ってた。でもその間すごく長く感じてここがきゅっと痛かった」
「僕は!僕は、くるみが沖田くんと重なって見えて本当にこわかった」

ベッドサイドに置いてあるティッシュを2枚分引き抜きそれぞれの顔に当てる。

清光は手元をそっと押さえるように涙を吸い込ませる。
安定はごしごしと涙を拭ったそれで鼻をかむ。わたしはその音に笑いが漏れてしまった。

「ごめんて。ティッシュは新しいの使って」
「うん・・・。くるみごはんは?食べられる?」
「そういえば途中だったよね。残しておいてくれてるなら、少し」
「温めてくる!」

先ほどふたりに支えてもらいながら上体を起こした。それ以降離れようとしない安定だったが、わたしの返事を聞きき離れの電子レンジを稼働させにすっ飛んで行った。
だから今はわたしの傍らに腰掛け指を絡ませてくる清光とふたり。

「ねー、もしかして昨日足しびれてたのもこれと同じ?」
「なのかな?」
「毎日こんななら耐えられないよ!」

再び涙声で心を乱す清光の腕の中で、彼の悲痛にすべて耳を傾ける。

「大丈夫だよ清光、わたしも強くなる。頑張らせて」
「・・・どうしても?」
「どうしても」
「・・・・・・わかった」


落ち着きを取り戻してもなお背中をぽんぽんとしてやっていると、安定が食事の支度ができたと寝室へ戻ってきた。
移動できそうなら執務室のソファーとローテーブルに行こう、と言うのでわたしはふたりの手を借りて執務室に向かった。

すると執務室では部隊長や博多がこんのすけと共に報告書の制作をしてくれていた。
実際に電子機器を扱っているのは博多とこんのすけだが、この光景に目頭が熱くなる。

「ご、ごめん呑気に寝てしまって」
「任せときんしゃい!って言っても主ほど早うできんけど!」
「ありがとうー・・・」
「ひとまずくるみには栄養つけてもらわないと」
「安定もチンしてくれてありがと」
「ちん?電子レンジのことなのかな。便利だよね、あれ」
「え、あ・・・?昔はチンって鳴ったらしくて、今は大抵ピーピー鳴るもんね」
「昔って。主が言うと変な感じ」
「確かに」

温めてられていた食事は3人分あって、清光と安定も今こうして一緒に食べるようだ。
食事には向いていない家具ではあるが3人ぴたりと並んで食べるにはちょうどいい。

わたしは汁物から少しずつ口にしていく。
温め直してもしっかり出汁をとって作られているせいかまだまだ香りもあっておいしく食べることができ食欲も次第に出てきた。

そしてもうひとくち飲んでみようと傾けたお椀の先にひょっこりと部屋を覗く五虎退の姿があった。

「五虎退!もう平気なの?」
「は、はい!あるじさまこそ、僕のせいで・・・ごめんなさい」
「あなたのせいじゃない。五虎退はごはん食べた?」
「えっと、はい!いち兄や兄弟たちが、面倒をみてくれました。これからお風呂に行ってきます」
「そう、よかった・・・。お風呂行ってらっしゃい」
「はい!おやすみなさいあるじさま!」

深々とお辞儀をして去って行った彼の足元でじゃれつく虎たちも、小さなご主人さまが元気になったことに嬉しそうだった。

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