54


五虎退の手入れはなんとか終えることができた。
今は兄の手を握りながら安心して眠る姿を一期と共に見守っている。

「主、有難う御座います」
「・・・うん」

一期は頭を床まで下げ、涙声で礼を言う。
夢と現実の狭間なような出来事にぼーっとしてしまうが、膝丸に肩を支えられた髭切が部屋に入って来てイテテ・・・と脇腹を押さえている光景で我に返る。

「次、世話をしてくれるかい?」

その脇腹には包帯が巻かれているが、既に赤く染み出ていた。

どうやら怪我人は複数いて、まずわたしが五虎退に集中できるよう外で待機してくれたのだろう。
またその間に誰かが応急処置を済ませた、と。

五虎退と一期の元から移動し、すぐさま髭切の手入れを始める。
汗なのか雨なのかわからぬ雫が彼のこめかみと頬を伝いわたしの腕に落ち、やあ悪いねといつも通り柔らかく笑ってみせるがその顔色はとても悪くまた泣きそうになってしまう。

「おやおや、流石に泣き虫な主は初めてだよ」
「ごめんなさい。・・・でも止まらない」
「うーん、それは困ったねえ」

髭切は顎に手を置き考え込む。そして、何かを思い出したのか懐から取り出した白い欠片を手渡された。
お土産に、石だろうか?わたしの手には五虎退の血が付着していてあまり受け取るには値しない状態なのだがとりあえず受け取ってみた。

「廊下で待っている間に歯が折れてしまってね、これも戻せるかい?」
「おそらく兄者は先の戦で歯を食いしばりすぎたのだろう」
「・・・あ、歯」
「そう、歯だよ」

ここなんだけれど、と大きな口を開き指で示す。
そこに向けて力を注ぐと新しい歯が復元され、ほっとした表情の髭切は感謝を述べる。
その彼に欠けてしまった方の歯を返そうとしたら、あげるよと言われわたしはとてつもなく戸惑った。確かに国宝の一部ではあるけど流石に・・・。

「まあいいや。次、膝丸」
「俺は最後でいい。次は三日月殿を」

膝に言われて後ろを振り向くと、長谷部に肩を借り三日月が入室している最中だった。

軽傷寄りの中傷、といったところだろうか。彼の肩に掛かる防具は破壊され、その肩から背中にかけ一振りの傷が生々しく残っている。
しかし練度の高い彼らがここまで怪我して、三日月すら敵に背を取られてしまうほどの激務を命じた覚えはない。

「・・・・・・」
「はっはっは、そんな顔をするでない」

三日月本人は手入れ中のためわたしに背を向けていて表情など窺えぬはずだが、表情どころか心の内までも読まれてしまっているような余裕たっぷりの声色が耳に届く。

「・・・検非違使?」
「だろうな」
「・・・・・・」
「まあ、こういう時もあるだろう」

検非違使の目的はいまだ不明だ。
本来の歴史を守りたいというのは時の政府と変わらないのだが、あちらは我々も敵とみなし攻撃を繰り返す。
今回三日月らにおこなったもらった任務だって、とある刀工の生命を狙う時間遡行軍の殲滅が目的だった。
なのに何故こんな争いまで発展してしまうのか。

「そろそろ中に入ってもいいかい?闇夜の廊下は特に面白みも無く退屈だ。それに雨水をたっぷり含んで身体も冷える」
「鶴丸と大倶利伽羅は、・・・軽傷だね。ずっと待っていてくれたんだ。入って。遅くなってごめんなさい」

部屋に入ってきた鶴丸と大倶利伽羅は誰かの支えも不要でぱっと見怪我もよくわからなかった。
鶴丸に関しては白い衣服のあちこちに泥が飛んでいるのが目立ち、まるで別の衣装のようだ。

もう少しで三日月の手入れも終わるので、そう言おうとしたら大倶利伽羅がくしゃみをした。

「おお、伽羅坊のくしゃみは初めて聞いたぞ!ははっ、お前もくしゃみをするんだな」

「・・・・・・触れるな」

「早くお風呂にも入らなくちゃね、もう少しだけ待ってて三日月のお手入れもう終わるから」

[]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -