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辺りは既に夕闇が迫り、灯を頼りに食事の部屋へ集まった。けれど、食べ始めるまでに第1部隊分の6席は埋まることがなかった。
わたしはせっかくあたたかい食事を提供してもらっているのに、どうしてもその6席や外に目が行ってしまい箸がなかなか進まない。
それは向かいにいる一期もで、乱の作った食事をおいしいおいしいと口に運び乱を褒めながらも時折外を気にする。
三日月率いる今日の第1部隊には五虎退が選ばれている。彼はその弟が心配で仕方ないのだ。
そんな兄としての姿に胸がきゅっと痛むような感覚になる。
「主、私の弟は必ず貴女の元へ帰って参ります」
こんなとき、きちんと言葉にできるような主でありたかった。
けれどそっと様子を盗み見るようにしていた視線も彼のものとぶつかってしまい、挙げ句の果てには心の内まで読まれてしまった。
なんて情けないのだろうと痛感し、わたしは箸を進めることしかできなかった。
そして食べるのが早いものは、もう食べ終えてしまったりおかわりをもらいに行っていたときだった。
稲妻の如く眩く光った夜の庭に一同が反応する。
「主よ!直ちに手入れを・・・!」
三日月の緊迫した声が本丸に響き、この部屋もたちまち騒然とした空気になる。
「負傷したものを運んでまいりますので主は手入れ部屋へ!」
「うん・・・!」
長谷部たちは一目散に庭へ向かい、わたしも急いで廊下へ飛び出し手入れ部屋へ走った。
部屋に辿り着くや否や、一期に抱え運ばれて来たのは五虎退だった。
ひと目で重傷だとわかる彼は血と泥でぐちゃぐちゃ。
あまりにショックな光景で、一期が彼に声かけているのも何もかも聞こえてはこないし言葉も失ってしまった。
現地は悪天候だったのか全身ずぶ濡れで、わたしの目の前へ慎重に寝かされた彼の周りにはすぐそれらが滴り落ちる。
わたしは無我夢中で震える手を彼に向け、力を込める。
まずは胸から腹部にかけての最も深く大きな傷を、と胸元に手を翳しているとぐったりする彼は突如咳き込み吐血した。
生温かいそれで真っ赤に染まる手など構いはしない。けれど苦しそうな彼の表情に一刻も早くなおれと奥歯を噛み締め更に力を放出する。
上体の次に深傷を負っているのは足。
たぶん、今見えているのは骨なのだ・・・。どうしてこんな子がここまで痛い思いをしなくてはならないのかと涙が止まらない。
滲んだ視界が鬱陶しくて腕で力任せにぬぐう。すると、僅かに鮮明となった視界からは青白く小さな手が小刻みに震えながら私に伸びてきていた。
「・・・さ、ま」
「五虎退!あともうちょっと、だから!」
「泣、・・・い・・・? あるじ、さま」
辛うじて開いている彼の目が、口元が、笑みを浮かべていた。
彼らは強い。わたしは、誰よりも弱くて無力だ。
余計零れ落ちる涙が彼の服にも染み込む。
染み込んでは自らの手入れですぐ消えるそれはわたしのように未熟な存在だ。