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「今日はいなり寿司だ!主のは俺がごはんを詰めた!」
「それはたのしみ。ありがと」

清光とわたしは昼食だと知らせにきてくれた包丁にずんずんと手を引かれながら忙しなく廊下を歩く。

「ねー、ごはんは逃げないんだしゆっくりでいいんじゃない?」

清光の右手とわたしの左手をそれぞれ掴んでいる包丁は、やや興奮気味に答える。

「かしゅー!お前にはどーしようかな、俺の作ったいなり寿司にしてやらなくもないぞ!」
「別に誰が用意してくれててもありがたいけど。ていうか何、俺いじめられてんの?困ったなあ助けて主ー」

お互い包丁とは繋がっていない方に清光が腕を絡ませ、余裕たっぷりの眼差しで包丁へ微笑む。

「む!はなれろよー!」

わたしたちの間に身体をねじ込むが、残念ながら彼の身長は足りず腕が解かれることはなかった。
それでも本人的には気が済んだのか、もしくは腕がそのままということに気付いていないのか・・・我々に挟まったまま今度はゆっくり歩き始めた。

それにしてもなんだろう、包丁は妙に清光へちょっかいを出したがる。
清光も本気でいじめられているなどとは思っていないので、わたしに絡めていた手を解き彼の髪を撫でる。
色素が薄く猫っ毛のようでとても柔らかそうだけど、ぴょこんと跳ねた一部は清光が触れても癖が強くすぐ元に戻る。
それが彼そのものを表していそうでつい口元が緩みちょっとだけ声がもれてしまった。

「あ、ねえ」
「なんだ主!」

ところでふたりに接点があっただろうか、そう聞いてみた。
すると小首を傾げるだけの清光に対し、包丁が加州は人妻みたいな手だから気に入ってると鼻息を荒くして答えた。
しかしそれには気に入られた本人も興ざめのご様子。

「まーでもやっぱり刀を持つ手だよな!主の手がいちばんだ!」
「それには間違いなく同感だけど」
「よーし着いたぞ!主の席はここ!じゃあ俺はまだ仕事が残ってるから戻るよ」
「どうもありがとう」

食事が用意された部屋に着くと、真っ先に席へ案内されわたしたちはそこへ座る。

「・・・主、交換してあげよっか?」
「ははは、大丈夫だよ。ありがと清光」

こっそりと耳打ちをする清光。彼はわたしのお膳にあるいなり寿司が気になって仕方ない。
けれどこれは包丁がわたしのためにと作ってくれたから、中身のごはんを少しでも多くと詰め込んだ代償に破れていても食べてあげたい。
清光や他のみんなのそれは小狐丸が作ったらしく、程よいサイズ感だった。



本丸に残っているものがすべて席についたところで箸を持ち各々食べ始める。

ずっしりとした包丁作のいなり寿司は箸で持ち上げられそうになかったので予め器の上でひとくちに切り分けてから食べてみた。
甘じょっぱくやさしい味がしっかり染み込んだあげと、ほんのり酢の効いたごはん。
正直手入れ部屋の件で食欲など皆無だったのだが、不思議なことに続きも食べられそうだ。

主包丁が見てるよさっきからずーっと、と横で清光が教えてくれる。
隠れているつもりなのか微妙なところだが、物陰からきらきらと目を輝かせて覗いている。

「よっぽど嬉しいんだね」
「気持ちわかるなー、わたしも清光に食べてもらえたとき嬉しかったもん」
「おむらいすもほっとけーきも他のもみんなおいしかった!またいつか主の手料理も食べたい」
「時間がとれるようになったら、ね。わたしは清光の手料理も食べたい」

懐かしそうに語り合うわたしたちに、くるみって料理できるんだと口を出す安定。

彼ら全員分をひとりで作るのは難しいけれど、いつか一品でも振る舞える日がきたらいいな。

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