49
長谷部が昼食に呼ばれるまで各自自由時間だと言い、わたしには着替えてきてはどうかと提案してくれた。
着替えということもありひとりで離れへ戻ってきて、早速洗面所で血濡れた衣服を脱ぐ。
手入れ中は無我夢中で気付かなかったけれど、乾きかけのそれから鉄っぽいにおいがツンと鼻を刺激する。
フラッシュバックしかける思考を振り切り、洗濯機の蓋を開けると中には今朝まわした分の衣類が詰まっていて意気消沈する。
・・・さっき洗濯したばかりだったんだけどな。
中身を入れ替え、経血汚れが落ちやすい洗濯洗剤を気持ち多めに投入する。
あとでこの洗剤も発注かけておこうと思ったが、そもそも直接触れなくてもなおせるのだから気を付ければいい話である。
見なくても手入れできることはできるようだし、とにかくもう少し霊力のコントロールがうまくできるようになりたい。
しかし見ずにおこなうというのは命懸けで任務をしてきたみんなへの失礼にあたるので、今回の清光のように言われたら対応するかたちを取りたいだけだ。
「主、着替えてる?」
「清光?」
清光の声が聞こえ、わたしから洗面所の戸を開けると着替え中じゃん!と逆に閉められてしまった。
スリップだったし問題ないと思ったのだが、逆に気を遣わせてしまったようだ。
「ごめん、着替え持ってきてないの。開けていい?」
そう扉に話しかけると、自動ドアのように開けられた。
ついてきていいのか少し悩んでる清光の手を引いて寝室に行き、新しい着替えを取り出しながらスリップなら平気だと思ってと口にする。
「すりっぷっていうの?それ。襦袢みたいなもんか」
ベッドに腰掛けて足をプラプラさせてわたしの着替えを待つ彼は、ふーんと興味があるのかないのか判断が難しいラインのトーンである。
「それで、何かあった?」
「いや主こそ身体大丈夫かなと思って」
「今はなんとも。お手入れ直後は流石に疲労感あったかな」
「身体もだけど、ここは?きゅーってしてたりは?」
清光とは反対向きに着替えていたので彼の『ここ』と示すものがわからず、それを確認するために振り返る。
すると彼は自分の胸元を利き手で鷲掴みにしていた。
「こころ?」
「よくわかんないけど、ここ。主は血なんて大して見たことないでしょ?・・・こわかった、でしょ?」
紅い瞳は真っ直ぐにわたしを見て問う。
「こわかったよ」
だから早くお手入れしなくちゃって焦っちゃったの。
結果的に空回りしてたし、己の未熟さも知って・・・心が壊れちゃいそうだったけど。
それでもわたしにはみんなが居てくれるから、大切だからめげずに乗り越えてられたんだよ。
そんなことを紡いでいると気付いたら清光の腕の中にいた。少しきつめに力を込められた指先は小刻みに震えている。
「壊れなくてよかった。主は直らないから、だから・・・」
「わたしだけじゃないよ、清光だってさいごまで壊れちゃ駄目。頑張ってもいいのはわたしが直せるところまで。これからどんなことがあっても必ずその前に帰ってきてね」
「・・・うん。約束する」
わたしは掠れ気味な声での返答に満足をし、紅い
涙目にそっと手を伸ばした。