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出陣や演練のものたちを見送り、踵を返したときだった。
時空転移装置の周辺がまた光り、振り向くとたくさんのダンボールが山積みになっていた。
「お届けものだ!今日はずいぶんたくさんっ」
一期らを見送りにきていた乱が早速開封していく傍らで、ああこうやって届くんだと感心してしまった。
「あれ?これはあるじさんのかな。かわいい瓶だね!」
食材とともにわたしが頼んでいたシャンプーや追加のドライヤーも一緒に届いたようだ。
ボトルも液体もクリアタイプのシャンプーを手にする乱は、あらゆる角度からそれを見てきれいとかわいいを繰り返し口にする。
「ううん、みんなのシャンプー。あとたぶんこれも」
「・・・へ?ボクたちの?」
「好みまではわからなくていろいろ買っちゃった」
宝石のような大きくて青い瞳は瞬く間に潤む。
「・・・・・・あるじさん!」
「わあ!?」
思い切り飛びついてきた乱に驚いたわたしはダンボールが支えになりなんとか倒れずに済んで、大粒の涙をぽろぽろとこぼす彼の背中をぽんぽんする。
ありがとう、としゃくり上げながら何度も何度も礼を言う。
先日話していたように、演練先で出会う自分から香る『何か』に憧れを抱いていた。
兄弟らに言っても大して興味がないのか、唯一熱心に聞いてくれたのは前の加州清光だったという。
手入れをすれば元に戻ってしまうけれど気休めに爪紅をしてくれたこともあったとか。
だから念願の出来事に尚更思い入れがあって悲しくなってしまったようだ。
「おやおや、どうしたんだい?」
「燭台切さん、大変なの。あるじさんがいい香りのシャンプーを買ってくれたの」
「本当だ。よかったね」
乱は鼻を啜りながらシャンプーを見せ、ようやく落ち着いてきたのにまた歓喜余ってしまったのか涙声で早くお風呂入りたいと言い出した。
「ははは、まだお昼にもなってないよ。それじゃあ買ってもらった物、運ぼうか」
「うん!」
「主は仕事があるだろう?あとは僕たちに任せて」
「ありがとう、よろしくね」
荷物の中からめぐリズムを見つけたので、それは自分で持って行くねとその場を後にした。
離れに戻ったらひとまず歯磨きしながら洗濯機を回す。
そして歯磨きが終わったら乾燥まで勝手にやってくれる設定になっているかをもう一度確認し、執務室へと移動しPCの前に座った。
けれど手合わせと手入れのことが頭の中でぐるぐると回っていて思い切りかぶりを振る。
本当は眠気覚ましにとデスクの引き出しに忍ばせておいたミントベースのタブレットを一粒口に放り込み、出来る限り気分を切り替えてマウスに触れた。
まずは政府からのメールチェック。昨日の戦績報告書類に問題がなかったことや、近頃の歴史修正主義者の動きなどが部署ごとに送られてきている。
また、近日中に大規模な調査を予定しているとのことで修行に行かせる場合はしっかりとスケジュール管理するようにも書かれていた。
・・・極修行か。実際にはゲームみたいに96時間できっちり帰ってくるわけじゃないからなあ。それに同一の刀剣男士であっても同じ時代同じ地へ向かうとは限らないと研修中に聞いた。
うちの本丸は今のところ新たな申し出はなく調査への支障はなさそうだ。
あとは発注をかけ届いた荷物に不備はなかったかどうかの通知。シャンプーなどの支払い先は無事に政府宛となっていて胸を撫で下ろす。
そんな感じでメールチェックはすべての文章に目を通し、必要に応じて返信をしていた。
ひとりで黙々とデスクワークをしているとなんでこんなにもあっという間に時間が過ぎるのだろう。
長谷部が離れへやってきて、清光の手入れをおこなうよう言われた。
「長谷部は、怪我・・・してないんだね?」
「ええ」
「そっか」
やはりここの本丸のものと顕現したばかりの清光では圧倒的な差があるのだろう。彼は本当に傷ひとつない。
怪我をしている清光は先に手入れ部屋に運ばれているそうで、わたしは彼のいる手入れ部屋へ急いだ。