02


加州清光を求め一画ずつ想いを込めてペンを握ったとき。

それは先日おこなわれた審神者内定者合同オリエンテーション最終日でのことだ。



あの日、無機質な政府の一室に通された我々5名は10振りほどの刀剣を目にする。

絶対に触れぬようベルトパーテーション越しに鑑賞したのち、『この中から初期刀に希望するモノの名を記入せよ』という書類を提出した者から順次帰宅との指示であった。

完全に事務的な政府側とは裏腹に、我々は全員言葉を失う。

初期刀と呼ばれる刀剣は全5振り。全て打刀である。初日の座学でもそう説明されたのだ。
しかしここにあるのはその一部と、所謂レア刀の部類だと思う。脇差や槍までもある。

傍らの男性は動揺し冷や汗が止まらないのかハンカチで顔を拭い、心の声を漏らしブツブツと呟く。その更に向こうの内定者は他の同僚に目もくれず一番に退室して行った。
いやわたしも周りを観察している場合ではない。冷静になりそれが挟まったバインダーを胸元に引き寄せ一度深く息をし、ボールペンを走らせた。



「・・・・・・」


「本日の任務。初期刀を顕現させよ、です」


まだ触れてもいない加州清光がわたしを待っていて、呼んでいる?
こんのすけはこの場に及んで期待外れな態度を見せるわたしに、彼なりの気遣いで比喩によってどうにかして背中を押したいのだろうか。

こんのすけは想像していたクダギツネと随分違う。もっとこう、愛嬌あって隙あらば毛並みをたのしませてくれる印象があった。
ここにいる彼はずっと最低限しか言動にしない。そして瞳の奥で全て見透かされている感覚。いかにも政府のつかいという存在。

しかし先程名前を呼ばれたときと加州清光を代弁するような発言のときは、本心が見え隠れしまるでため息混じりに勘弁してくれと言っている印象だった。
彼には案外人間味がありただ人見知りだから今はこんな愛想ない対応だった、というならこちらとして嬉しいのだが・・・・・・。


痺れかけの脚で今度は加州清光と向かい合うように腰を下ろす。

時の流れが麻痺したこの空間は本当に居心地が悪い。
それに加えて傍らから刺さる低めの眼差しと、耳が痛くなるほどの静寂が再び煩わしい。

意を決して指先が刀剣に触れると、紅色から連想するものとは反対の冷たさとそれの重厚感が伝わる。
戦争を知らないわたしは今まで美術品と認識していたものを『武器』であると思い知らされた。

こわい。率直にそう思った。

不安がよぎり拘縮する掌はそれを持ち上げるかたちに変わる。その瞬間、あたり一面眩い光に包まれ反射的に目を閉じる。しかしもう恐怖は消え、ほんの少し桜の香りが心地よく鼻をくすぐる。

瞬く間に元の人工的な明るさへ戻ったのが固く閉じた目蓋越しにわかる。

「それ、ちょーだい」

わたしはこの声を知っている。幾度となく聴いた。
ただこの『台詞』は前代未聞で、本当に彼が存在するんだなと実感した。

本能で俯いていたから、期待混じりに恐る恐る顔を上げ声の主を確認する。
彼はわたしの傍らで膝を抱えるようにしゃがみ込み片手を軽くこちらに伸ばしている。

もう少しだけ視界を上げれば(くれない)の瞳とぶつかった。

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