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食事を終え、あとは自ら片付けるつもりだった。
しかし薬研がまとめて片付けてしまうから構わないと言い、わたしはせめて洗い場まで持って行きたいと懇願した。
それも調理場へ着く手前で長谷部に取られ、すぐさま手持ち無沙汰となったけれども・・・。
こういうときいくら事情があっても自分で自分で、となってしまうのはむしろ手間を煩わせてしまうのもわかっている。
だからみんなに任せ食事を用意してくれたことにおいしかったごちそうさまと心からの感謝を伝えれば、長谷部が桜の花びらを散らしそうなほど喜んだ。
「主、おはよ」
あまり覗くことができない調理場へいるので、食事担当中不便はないかきいてみたりしていると後ろから清光の声がした。
「清光、みんなもおはよう。寝坊してごめんなさい」
「おはよう寝坊助主」
「やーすーさーだ、怒るよ」
「ははは・・・、事実だから仕方ないよ。以後気をつけます」
清光はこんのすけを両腕で抱き上げている。その傍らには新選組の刀たちがいて、みんなへ頭を下げる。
すると安定の辛辣な言葉が降ってきて、それに対し清光が自分のことのようにムッとした。
そんな彼を宥め、何かあったのかと問う。
「あ、そうそう。・・・主、お願いがあるんだ。今日から真剣の手合わせを許可してほしい」
凛とした空気に包まれ、心と体が強張る。
「怪我しちゃうからお手入れが必要になって、汚いところ見せちゃうのが心配だけど・・・。俺、早く出陣したいんだ。強くなりたい」
お願い。そう言う声色は僅かに震え恐怖心が混じっているようだった。
強くなりたい。これに嘘偽りは1ミリたりともない。
彼はわたしに嫌われたくない一心で怯えているのだ。
「わたしは、やりたいことを応援したい」
しかしこればかりはわたしの独断じゃ難しく、内番作業の手を止め聞いていた長谷部をちらりとみる。
「主次第ですね。とはいえ、出陣任務を再開しています。いつそのときを迎えるかはわかりませんので、大変心苦しいですが・・・」
これを機に慣れて欲しい。長谷部はそう言った。
こんのすけもわたしの霊力が不安定であるから出来るだけ早いうち回数こなしていくべきだと助言する。
意を決し改めて清光に向き合おうとしたとき、後方の堀川と視線がぶつかった。
「どうかこれからも戦を知らないで生きて」ここに来て2日目の夕暮れ時、ふたりで道場の壁を背にしていたあのときと同じだ。彼は、困り顔で切なく笑う。
「大丈夫ですよ。今日の相手は僕たちで、折れたりなんかしない。それに、主さんも必ず上手にお手入れできますよ!」
「そうだぜ、手加減はするさ」
正式に政府の審神者になったのに甘え過ぎかもしれないけれど、優秀なみんながいてくれるからまずはこそ今のわたしにできることをコツコツやっていこう。そう決めたんだ。
「わかった。清光、頑張っておいで」
「うん。ありがとう主」
「きっとまた、見せたくないー捨てられるー!って喧しいけど手刀でも一発食らわせてお手入れ強行していいから」
安定から茶々を入れられ清光がまた口を尖らせ、抱いていたこんのすけの前足で安定に連続パンチをお見舞いする。
猫のように戯れ合うふたりを眺めていると、長谷部が私の名を呼んだ。
彼は少々難しい顔をしていたのだが、なんと清光の鍛錬に加わるとのことだった。それにはここにいるものすべてが目を丸くした。
「朝食当番が終われば非番のようなものなので。俺が全責任を持ちます」
「いいの?ありがと長谷部」
「ああ、先に行って身体をほぐしていろ」
「はーい。じゃ、主行ってくるね」
「行ってらっしゃい、また後でね」
「うん!」
清光は迷惑を被ってくたくたになったこんのすけをわたしに預け、仲間とともに道場へ向かって行った。
参戦が決まった長谷部も早いところ合流しようと後片付けを再開し、わたしはこんのすけの毛並みを整えながらそういえば・・・と考えごとを始める。
安定、『寝坊助』は余計だったけど初めて主と呼んでくれた気がする。
彼は主と認めたくないが故にわたしを名前で呼ぶのではなく、せっかく名乗ってくれたのだから敬意を込めてだと言ってくれている。
それでもやっぱり新鮮で嬉しかった。