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朝日による明順応が落ちついたと思ったら、今度は暗順応で見えにくくなった広い部屋。そこにはぽつりと秋田だけが居た。

「おはよう御座います主君」
「おはよう、寝坊してごめんなさい」
「いえ!夜遅くまでお疲れ様です。お食事はこちらに用意してありますよ」

次第にハッキリと見えてきた視界の中で座って食事をしていた彼は立ち上がり桜色の頭を下げた。
その傍らには2人前の朝食とこんのすけ用と思われる油揚げが置かれている。

謙虚な彼の傍らに座り、こんのすけもその場に降ろす。
よく見ると彼の食器はもう空っぽで食後にお茶を飲んでいたようだ。

部屋の奥の方からは後片付けに追われる音がし、そちらにも声をかけてから食べようか悩んでいれば秋田が気を遣って温かいうちにどうぞと言ってくれた。


「よお大将」

食べ始めてまもなく、調理場で後片付けをしていた薬研がやってきた。

「おはよう、ごめん寝坊しました」
「いいって。昨夜は疲れたんだろ」

秋田が食べ終わったので交代しようと言い立ち上がり、それに伴い薬研も防水仕様のエプロンを外し彼に託す。

秋田のいた場所には薬研が自分の分の朝食を引き寄せ席に着く。
そして礼儀正しく手を合わせてからおみそ汁に口を付けた。

蓋を開けたばかりのおみそ汁はまだ温かいため彼の眼鏡を曇らせる。
しかしそんなのはたった一瞬のことですぐクリアに戻り、伏せ目がちの長いまつ毛が見えた。陶器のように真っ白な肌とのコントラストはとてもハッキリとしていて息を呑むような美しさだ。

「大将、ちょっと見惚れ過ぎだな。食べにくい」
「ご、ごめん」



奥から秋田と長谷部の声がする中、薬研と朝食を共にしていると薬研がこんのすけの話題を口にした。

「にしてもこのこんのすけ、以前のヤツと全然違うよな」
「・・・!」
「それにちっこいし」

丁寧だがテキパキ魚をほぐしながらも横目でちらりと見られたこんのすけはまた身体を小さくし、言葉を詰まらせている。

「こんのすけの、界隈・・・っていうのかな?まあそれにもいろいろあって、この子は所謂新人なんだって。わたしと一緒」
「ほー」

ね、と同意を求めたらか細い声で肯定した。

「申し訳御座いません。前代のこんのすけが優秀故に尚更至らぬ点が多々あるかと思います・・・」
「大丈夫だよ、文句が言いたいわけじゃないさ。俺っち達だって本丸の数だけ居るが、別物扱いしてくれるだろ?それと同じだ。仲良くやろうぜ。あとはそうだな、いっぱい食ってでっかくなれよ」

耳がぺたりと折れ曲がるほど気を落としていたかれだけれど、薬研にわしわし撫でられおみそ汁の揚げを器に分けてもらい嬉しそうだ。

「たーいしょ、また見惚れてんぜ」
「薬研お魚ほぐすの上手」
「おう、大将の倍は箸使ってるからな」
「確かに」



「それにしてもいつも全部おいしい」
「そりゃ良かった。けど、最初は苦労したぜ?食ったことないもん作れと言われたんだから加減なんてわかりゃしねえ」

ここへ顕現してからの昔話に肩をすくめる薬研。
彼は多くの兄弟が存在するせいかコミュニケーション能力が高く、わたしもこうしていると居心地の良さを感じる。

「そうだよね・・・。でもみんな刃物は最初から得意そう」
「そうでもないかな。俺っちもじゃがいもの皮むきでやらかしたことあるしな。それが初めての手入れだったからよく覚えてる」
「想像しただけで痛い」
「ははっ、戦場に立つものの主が言う台詞か」

顔を顰めるわたしに彼は笑う。
こりゃ怪我して帰って来れないな、なんてひとりごととも取れる台詞がぽつり呟かれる。なんだかそれが妙に遣る瀬無い心持ちになった。
笑っているし冗談と捉えて流していいのかもしれない。それでもわたしはそれが出来そうになくて、手にしていた食器を置き彼にきちんと向き合う。

「いくらでも治す。帰って来てくれたらそれでいい」

やっぱり深い意味はなかったせいか、瞠目する薬研。
彼が口に運ぼうとしていたきゅうりの浅漬けはしばし行き場を失い、もう一度器に戻された。
そして膝の上に作られたわたしの拳へ自らの手を重ね、さがな者だったと柔和な顔で謝られた。

「さがな・・・・・・?」
「・・・そっか。そんじゃ、せめて重傷第1号にならないよう気を付けよう」

さがなもの、というのが何のことかわからず頭の中にはハテナがたくさん浮かぶ。
けれど彼はそんなのを気にせずひとりで納得しまた箸を進め始めてしまった。

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