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・・・・・・にしても、継承されてもう3日経ったんやな。
えらい平和ボケした娘さんがきたもんやからまだ自分らの主はんてしっくりこーへんのです。

そもそも、刀は主はんを転じるもんですがおそらく大半が初めて異性を主にする。それがいちばんの違和感やないでしょうか。
中には粟田口の前田や平野のようにかつて女性の守り刀だった場合もあるようですけど。

主はん本人も無理に主と呼ばなくても良いなどと言い腰が低く、自らくるみと名乗った。前代の審神者はんは名を明かすことがなかったため、そういうもんやと思っていたし今回物珍しさであえて名前で呼ぶ連中もおる。
くるみはんもそれが好意的な理由であるとわかっていそうで、自分らと直接やりとりができること自体を度々嬉しそうにしはる。

そういう何気ない折節から純粋で真面目なのが感じられるが、堅苦しい場はどうも得意ではなさそうで。初めて広間にやってきたときも、それ以降大勢の前で話すときも・・・必ず服を握って辿々しくしゃべる。

戦好きの連中は頼りない異性の主はんで猜疑深い表情を浮かべていたが、彼らの要望に耳をよく傾けはるし主として認めていない訳ではなさそうですねえ。

現に3日目にして、政府から通常の出陣許可がもらえるよう手配するなど結果を出していますし。確か初め1週間出陣が難しいとか言ってはった気がしますけど。

なんて言いますか、こういうんは性格うんぬんよりか本丸の連中各々をよう理解してるからこそ上手いこと仕事ができるんちゃうかなと。


蛍丸もくるみはんをすぐ気に入ったようで、話すきっかけを探していました。

けれど主はんの周りにはいつも誰かしらおる。蛍丸は案外ぐいぐい行けない部類らしく、その顔には不満が現れとった。

愛染国俊が普通に行けばいいやないかと背中を押してやっても駄目そうで、自分もそういうの苦手やから頭を撫でとくことしかできまへん。

それが2日目までの蛍丸でした。


3日目の早朝、本丸は久々にバタついていた。
それは自分ら来派の部屋もで、蛍丸は演練に愛染国俊は出陣に備えていつものジャージ姿ではないのだ。
ま、自分は内番なんで楽な格好しながらそれを見守っとりましたけど。

鏡越しに帽子の位置を調整する蛍丸の傍らで、小柄な身体をふたつに折り畳みゆっくりと伸ばしている赤髪に軽く手刀を喰らわせた。

「なんだ国行、ひとり留守番なのが気に食わねーってか?」
「ちゃうわ。ま、廊下掃除なんは気い遠なるけども・・・」


愛染国俊は三日月はん率いる第二部隊としての出陣だ。
そこまで厄介な任務ではないらしいがなんせ久しぶりの出陣なのだから十分気を付けるよう伝えると、屈託なく白い歯を見せて頼もしい返事をした。


継承後初となる転移装置の使用で不安がる主はんとは正反対に、うちの愛染国俊は目を爛々とさせながら光に包まれ消えた。

残るは長義はん率いる演練部隊。蛍丸もその一員として自分の傍らから転移装置の前へ歩を進める。
・・・と、思った矢先。蛍丸が軽く助走をつけて主はんに飛び付いた。

「俺もいってきまーす。もちろん勝ってくる。俺強いんだから」

主はんは突然の衝撃に驚いていたものの蛍丸の想いをちゃんと受け止めてくれたうえで背中をぽんぽんとしてくれているようで。

「よーく知ってるよ、行ってらっしゃい」

行き先が戦場という名の出陣ではなく演練だからというのもあるけれど、先ほどより余裕がありそうな声色は腕の中の蛍丸だけでなく自分にも居心地の良さを感じた。

そして、貴方なら任せられる。そう思いました。

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