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何十年何百年、そしてこれからもずっと『見てるだけ』のはずやった刃生は審神者の主はんに呼び起こされて一変した。

・・・今じゃそれがすっかり日常になってしまいましたけど。



腹が減りゃ食べる、眠くなりゃ寝る。その他もろもろ。
ただこっちの刃生は働かざるもの食うべからずーらしいんで、えらい骨折れますけど畑も飯作りもそれなりにやっとります。
ま、自分要領良いんでなんでもすぐにこなしてた方と違いますかね。

しっかし昔のままのが断然楽やし戻りたいようなもう少しこのまま自由でありたいような、と。ぼんやり考えているだけで50年経ったんかいな。
審神者の主はんも自分らとそう変わらん容姿やったのがいつの間にかしわしわの腰曲がりなってしまいましたわ。

こればかりは仕方ないです。自分らは刀、主はんはいつの時代も人ですから。

いくら腰曲がっても前のこんのすけがなんと言おうとも、夜は大抵豪快な酒の呑っぷりで政府の愚痴をこぼす。その割には人一倍業務に励み政府の審神者を代表できるほどの方で、度々講話だとかに呼ばれてはりました。


そんな日常がもうしばらくは続くんかと思ってたんやけどな・・・・・・。

老いというのなら常に目の当たりにしてきたんでわかりますけど、時空転移中の行方不明って何ですのん。


「もっと隅々まで探してよ、主さんも助けを待ってる。まだ間に合うから」
「蛍丸、政府はもう十分探したんやて。・・・おらんかった、って」
「嘘だ、嘘だよそんなの」


虚脱状態の蛍丸をぽんぽんと慰めながらも、正直あん時は自分のことばかり考えてしまっていたっけ。

主はんのいない刀なら、自分らまた見るだけの日常に戻るだけですやん。
時代の流れで使われることのない美術品だとしてもそれが本来の自分らな訳で。
新しい主はんもそのうちまた現れる。それはいつの時代も変わらないこと。

面倒な畑も何もせんでええんです。なのに何故こうも人の身のままでおりたいと思ってしまっている?

自分、刀の癖にいつからこんな人臭くなってしまったん・・・?

って、そんな感じやったかな。別に審神者の主はんがどうでもよかったなんてことちゃうで。えらいキレもんやったし、自分とは程よい距離感を保ってくれはった。
何より蛍丸や愛染国俊らにもこうして再開できたんも主はんのおかげです。
せやけどその主はんが帰らぬ方なった理由が理由で自分らじゃどうにもならんっつーのが諦めるより他ないて思うて・・・。



「もう一度、この本丸に主を」

「どのようなかたちでも、主の築き上げたこの本丸が在り続けることに誇りを持ちたい」


あの時、三日月はんは間違いなく本丸のみなさんに希望を持たせはった。
それだけでなく、ほんまに政府へ本丸の存続と継承を申し出て有言実行。自分らはくるみという娘さんを主に迎えることとなった。




「国行、三日月ってすごいね。またばらばらになっちゃうところだったけど、これで継承がうまくいけば国行たちと一緒にいられるんでしょ?俺は嬉しい。国行は?それとも、刀が何言ってるんだって、思う・・・?」
「・・・・・・」
「国行?」
「どっちなんやろな、あれ」
「あれ?なんのこと」
「あれはあれや。はー、柄にも無いことせんとこ。眠なってきたわ」


広間を出たらいつもと変わらぬ本丸の廊下やった。
日向ぼっこ日和。自分もいつも通りそこに寝そべりまぶたを閉じる。けれど頭の中が一向に休まらんくてほんまに勘弁して欲しかった。

・・・わかったわもう。
蛍丸の離れ離れになりたない願いも叶う。
自分の人の身でおりたいという望みも叶う。
他の連中も政府も異議なし。めでたしめでたしってことでええ。

あれに一瞬戦慄が走ったのもごちゃごちゃ考えんとぜんぶ胸の内に仕舞い込んで無理矢理眠りについてやったんです。

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