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夕食中、例の給料に関する話をした。

食事中まで仕事の話題を持ち込むなだとか食事中は静かにと言われてしまわないよう、念のため全員が揃っているときに伝えたいがわざわざ時間を取らせたくないからと前置きをしておいた。

深刻な話だろうかと心配の色をみせるものもいた。けれどいざ話を聞いてみたらたちまち目を輝かせ何が欲しいか考え出した。

一期は何より弟たちが喜んでいるのでありがたい待遇ではあるが主に普段はかからないのだろうかと心がかりのようだった。

正直政府から審神者個人に送られる報酬は一般的な額ではない。
それに本丸の家賃や光熱費はそもそも存在せず、3食の食事も一振り当たりとして計算された別の金額内で自由にやりくりすればいい。
経費として落とせるものだってあるし、本当に使いどころがなく口座に貯まるだけなのだ。

だから大丈夫だ、と。一期も欲しいものを考えておいてねと安心させた。



夕食後はすぐに執務室へ戻り報告書の作成に取り掛かった。
作業開始から1時間は傍らで長谷部とこんのすけが翌日の出陣先に最適なメンバーの選出していたが、今はこんのすけとふたりきり。

「主、取り込み中すまない」
「平気。何かあった?」

キーボードを絶え間なく鳴らし続け、あれから更に1時間経った頃だろうか。執務室に歌仙がやってきた。
すぐに手を止め、中へどうぞとソファーに掛けてもらう。

これなんだが、と渡された1枚の紙。
達筆で書かれた食材の発注票だった。

「いつも博多に頼んでいるんだ。しかし今日は出陣もあったからか、粟田口の部屋は既に寝静まっていてね・・・。明日でもよさそうだけれど、もしも間に合わなかったらと心配になってしまったんだ」

「わかった。やっておく」
「ありがとう主。これで安心して寝付けそうだよ」
「こちらこそいつもみんなの為に考えてくれてありがとう。よく休んで、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ。きみも体調にはくれぐれも気を付けて」

彼を離れの扉まで見送り、今一度受け取った紙に目を通す。

「・・・・・・鶏卵100個!?」
「どうされましたか?」
「あ、いや!そ、そっか。1食で100個くらい簡単にいっちゃうよね」
「そうですね。ちなみに政府は契約農家がありまして、発注が通らないことはまず無いと思います。では先に発注を済ませましょうか」

こんのすけはマウスを器用に動かし、食材専用の発注ページを表示してくれた。
ディスプレイの前に座り直し、歌仙に頼まれた通り打ち込んでいく。

卵の次は、鶏もも肉7.5キロ・・・。

みんなが畑を頑張ってくれているものの完全な自給自足には限界がある。
だからこうして食材発注が必要となるが、早く頼みすぎては保管庫に入りきらなかったり最悪腐らせてしまうかもしれない。
大変な担当を引き受けてくれている歌仙には歩合給を多めに渡すべきだと思った。



事前にできることはしておいたしみんなが要点をまとめて報告してくれたとはいえ、政府へ提出し終えた頃にはもう日付が変わりそうだった。
それから風呂に入ったのだが、自分で清光のためにピンク色の入浴剤を入れたこと忘れていて追い焚きする際に驚いてしまったりと流石に疲れているようだ。

お風呂から出てくるとこんのすけはソファーで寝息を立てていた。
そっとベッドに運び、先ほどまで自分がデスクで使用していたブランケットをかけてやる。

ドライヤーは・・・こんのすけが寝てるからいいか。
しかし人にはドライヤーを教えて自分は怠るというのもなと葛藤し始め、差しっぱなしのコンセントを引っこ抜き洗面所で使うことにした。


歯磨きも何もかも済ませ、あとは寝るだけ。
ぼーっとする頭で最後にアラームの確認をとスマホをみると、1件の連絡が入っていた。

ベッドに沈みながらそれを表示させると友人からだった。

元気にしていますか?無事、本物の審神者になれましたか?
そんな冒頭から始まり、それ以降は彼女の近況が記されている。
ここのところ体調が優れなかったのは妊娠していたかららしく、それも今日わかったばかりで家も職場もバッタバタだそう。

わたしの心配をしてくれているのか、自分のことをきいてほしいのか。どちらかといえば後者の割合が多めだと思うけれど、審神者を目指すにあたり最も親身になってくれた存在だ。

彼女のもとにも通知が届き、初回の説明会へは一緒に参加した。しかし段階で家族らの反対を押し切ってまではなれないとこの件を断念したのだ。

彼女はSNSで出会ったそこそこの課金者で、共に現存する刀剣の鑑賞をしたり元の主や刀工さんにゆかりのある地へ行ったりもした。
わたしがどうしても同行してほしい催し物があったときも、彼氏との予定をばらしてまでとことん作品が大好きだった。
彼氏に申し訳ないとは思ったけれどもしかしてその程度の関係だったのかもしれないと胸中を掠めていた。
でもそれは見当違いで、信頼し合ってるからたった1日の予定を無くせても終わりのわからない審神者は本当に彼を愛しているから選べなかったんだろう。

本物の審神者、か・・・
彼女らだって偽りなんかじゃないよ。

彼らのことを好きになってもっと知りたくなって、彼らを取り巻く歴史を学び、のこっているものを大切にしようと思ったり、復元活動に支援したり。
間違いなく時の政府が求める存在だ。
だから、・・・・・・

返信の文面を考えるため一端瞼を閉じ深い呼吸をしたら待ちかねたように睡魔がやってきて、そのまま深い眠りへとついた。

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