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清光がお風呂に入っている間、部隊長だったものが揃ってやってきた。

普段着で執務室にいる彼らはつい今しがたお風呂に入ってきたこともあり、非常にリラックスしている。

特に三日月。彼のギャップはなかなか慣れそうにない。なんて思っていると本人と目が合い、言葉通りにこりと微笑む。

「では、始めよう」
「あ、そ、その前に!今朝は取り乱してごめんなさい。以後気を付けます」

わたしは冒頭でこう言った。
確かに出陣先は何が起こるかわからない。しかし過度に心配していては、彼らへの信頼が薄いと思われるかもしれないし逆に不安を煽っている場合もある。

手入れも軽傷程度なら問題なくできると自信がついたこともあり、少しずつ考え方が変わった。
明日からは主人たるものどんと構えて見送り、信じて帰りを待とう。そう決めた。

「貴女は悪くない、無理を承知で早々に出陣を頼んでしまった我々に責任があるのです」
「俺は心配されることに悪い気はしないぞ」

三日月は特に何とも思っていないようだった。
一方で長谷部は自分を責め、明日からの予定を改めようとしてくれる。
けれどわたしの中でもう決心はついたので、予定通り政府に下された任務を引き受けるつもりだと言った。

「そうですか・・・わかりました。しかし絶対にご無理はされないでください」
「うん、ありがと」

長谷部は藤色の真剣な眼差しで、これでもかというくらい眉を下げる。自らを想っての言動は満たされるものがあったけれど少し面映かった。


本題の報告に関しては各々が簡潔に話してくれた。

長義率いる演練部隊は、こんのすけの一報で一部把握していたがその後すべてを完全勝利で飾ることができたそうだ。

出陣部隊はふたつ。
まず長谷部率いる部隊は、とある鍛冶屋がキナ臭いため調べるよう政府から言われていた。
長谷部が起点を利かし一般人に被害が及ばぬよう夜戦帯を選び、見事有名刀匠の暗殺を目論んでいた時間遡行軍を退治できた。
三日月の部隊は、幕末期の争いに奴らが紛れ込んでいる可能性があり調査中の別本丸に応戦する任務だった。しかし敵の数が予想より多く手間取ったが、幸いにも愛染に軽く手入れが必要になった程度で済んだ。

遠征部隊はひとつ。膝丸が部隊長で、十分余裕はあるが資源もいくらか調達してくれた。また余談で、髭切が鬼の首を主に持って帰りたいと他の隊員を困らせてしまったらしい。・・・そういえば昨日そんなことを言ってたっけ。冗談だと思ってたんだけど。そうだな、これは彼に気に入られたってことだと捉えていだろうか。


「わかった。疲れているところありがとう」
「当然のことです。主から何かご不明な点などは御座いませんか?」
「みんなわかりやすく話してくれたからあっという間に報告書が仕上がりそうだよ」

感慨に沈んでいると清光がお風呂から戻ってきた。

「あ、おかえり。えーと、出陣したら部隊長が報告するんだっけ・・・?」
「そうだ、ちょうど今終えたところでな。加州も鍛錬を頑張っていると聞いたぞ」
「うん、早くみんなに追いつきたいからね」

そうかそうかと三日月は清光に微笑む。

「ところで加州、お前はまたここで入っていたのか」
「そ、本丸のシャンプーもさっぱりしてよかったけどやっぱり主のやつの方がいいにおいで好き。ていうか主と一緒がいい!あと今日はお湯がさくら色でそれも気に入っちゃった」

いつになくご機嫌の清光。濡れた毛先を肩に掛けたタオルで包みながら鼻歌交じりにドライヤーしてくると寝室に消えて行った。

「それほど良いというなら俺も一度世話になってみたいものだ」

清光に対しやれやれと言わんばかりの長谷部は、三日月まで興味を持ち出したため観念の臍を固めたのかもう何も追求しなかった。

「いいけどみんなのお風呂の方が広くてくつろげるでしょう」
「フフフフ、楽しそうデスね。お楽しみのところ失礼デスが食事の準備ができましたよ」
「村正、呼びに来てくれてありがとう」

いつの間にか村正が執務室に入ってきていた。
彼のかっぽう着姿が珍しくついよく見てしまったら、自らの頬に大きな手を添えられ脱ぎまショウか?と妖艶な囁きが。
しかし即座に長谷部のゲンコツが飛んできて不満げに口を尖らせる。

「・・・はは、かっぽう着もなかなか似合ってるからまたにはそのままで。それでは報告はおしまいにして、ごはんをいただきに行こう。あ、でもわたしは清光を待ってから行くからみんな先に行っていて」

離れを出ていく部隊長らに背を向け、わたしは執務室から寝室に足を早めて向かう。
鏡台の前でドライヤー中の彼は鏡越しに私の姿を見つけるといかにも嬉しそうでつられて口元が緩む。

「清光、ごはんだって!髪ちゃちゃっと乾かそ」
「はーい」

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