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「あ・・・そろそろ清光も呼んでこなくちゃ」
「呼んできてあげる」
「いいの?おつかれのところごめんね蛍丸」
「いいよ、演練楽しかったから」

愛染の手入れをするため手入れ部屋にやってきた。
同じ刀派の彼を心配してか蛍丸もついてきたが、道場にいる清光を呼んで来てくれるそうでぱたぱたと部屋を出て行った。

「それじゃ始めるね」
「おう!」

深呼吸をひとつし、向かい合って座った愛染に手を伸ばす。なおれ、そう念を込め傷口と髪に少し触れるだけで元通りになった。

「・・・できた。どうかな?」

黙って手入れを受けていた彼は閉じていた目をゆっくりと開け、患部に触れ確かめる。

「上出来だな!主さんも具合悪くなったりしてねーか?」
「うん、平気そう」

うまくいったことと、主のわたしにも気を遣ってくれたことで緊張していた顔の筋肉が一気に緩む。
手入れに満足している愛染はこれならじゃんじゃん出陣できるなと喜んでいるけれど、今回だってたかが髪と擦り傷だけと思ってもよくよく考えたらあとちょっとで顔がすぱっと斬られていたかもしれないのだからね!とわたしは彼に口を尖らせた。

「いやー、1体何処からか出てきたヤツが結構強くてよ!」

そんな想定外の展開にいち早く応戦してくれたのはどうやら三日月らしい。まあ詳細は後ほど彼から報告してもらうつもりだ。


愛染と話し込んでいると、廊下がだんだん騒がしくなりふたりで小首を傾げる。

「だから待って、離してってば!」
「はやくはやく」
「なんっで、こんな、馬鹿力・・・!」
「主、連れてきた」
「・・・あ、ありがと」

蛍丸に半ば引きずられてきた清光は息を切らしている。一方蛍丸は平然としており、愛染にもう直してもらったならお風呂へ行こうよと言う。

「よし、んじゃ俺らは行くか!主さん、世話になったな!」
「どういたしまして。お風呂行ってらっしゃい」

外していた武具を回収し、小柄なふたりは手入れ部屋を後にする。

「さて、清光の番。こっちきて、お手入れさせて」
「・・・・・・みないで」
「わたしまだみないとお手入れ上手にできない。今日は髪も解けちゃったんだね。結ってたやつ持ってる?」
「どっかいった」
「手入れで復元できるかわからないから、できなかったら取り急ぎわたしので我慢して」

蛍丸に急かされたせいで市松模様の襷掛けはされたまま。できる限り腫れ上がった素肌を見せまいと自分の背中に隠す清光はなかなか座布団に座ってくれない。

「もう」

先ほどまで愛染がいた座布団をぽんぽんしても拒む彼を捕まえようとわたしは立ち上がる。が、足が痺れてしまい声にならない声をあげた。

「主!?」
「し、しびうう・・・」
「しびう?って何?!」
「ちょっと、まって」

彼はすぐに異変を察知ししっかりと支えてくれ、熱を帯びた腕が目の前に。動揺する彼に説明しようにも言うことをきかない自らの身体に鞭を打ちやっとのことで待ってくれと伝える。

「治った・・・。ごめん、足痺れてた」
「なんだ、驚いたじゃん・・・」

清光の手を借りつつゆっくりと元の位置に座り直す。これではどちらが怪我人かわからない。
けれど結果的に手入れをできる状況下となり、ようやく彼も観念した様子。

まずは利き手の甲にそっと触れた。
刀を払われたのかな、お昼は箸を上手に持っていたからきっと午後の怪我だろう。
そして擦りむいた肘も肩の打撲も、衿を緩めて脱がした上半身から現れた無数の痣も。すべての熱を奪い取るように手入れを進めていった。

「はい、おつかれさま。がんばったね清光」
「・・・ありがとう」
「どういたしまして」

致命傷になりそうな場所は昨日よりいくらか回避できていた分、その他に攻撃をくらってしまった・・・そんな気がする。
まああくまでも素人が感じたことだし、と口には出さなかった。

「髪留めもちゃんと戻せた」

たった1日で急成長する彼の髪に指を絡める。
艶のある黒髪はひっかかることなくするりと指の間から抜けて肩に落ちる。

「主もすごく頑張ってる」
「それはどうもありがとう」
「でも、汗臭いからもう触っちゃダメ」

彼に伸ばしていたわたしの手は捕まえられてわたし自身の膝へ戻され、両肩も軽く押されて距離を取られた。

「くさくない」
「ほんとに?あー、今日はやっぱり主のシャンプー使いたいな」

主と離れていても近くにいるみたいだから。そう言う清光に、わたしはさっき奪い取った熱が顔に集まった。

「あれ、主照れてる!かわいいー」
「ま、まだ本丸内の話なのにね。でもいいよ、ほら!先にお風呂入れておくから着替え持っておいで」
「はあーい」

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