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昼食後は本日分の報告書を最低限打ち込んでおき、あとは出陣組の帰りに備えていた。

そう言うといかにも出来る上司なのだが・・・。
実際には何をしても手付かずで庭先の時空転移装置とデスクを幾度となく行き来したり、直ちに手入れができるよう手入れ部屋の扉を開けっぱなしにおいたりと見るに耐えないものだったと思う。
内番中の山伏とは何度かすれ違い、新らたな修行のようだと白い歯を見せ笑われてしまった。

またこんのすけからの続報有無も確認したものの、届いていたのは先ほど政府に頼んだ申請許可と過去の経費に関するデータのみだった。

そして15時を過ぎた頃、ついにみんなが続々と帰還した。
わたしはちょうどまた装置の前に向かう途中で、白昼でもひときわ眩しい光が見え自身の足を早めた。

一番最初に戻ってきたのは演練部隊で、こんのすけを肩に乗せた長義が鼻を高くし開口一番に帰還を告げた。
あとはほぼ同時といってもいいタイミングで帰還し、庭はあっという間に賑やかとなった。


人生最多記録になるのではというほど短時間で何度もおかえりと口にしたわたしは、みんなに怪我がないかを尋ねる。
みんなといっても演練部隊を除くが、声かけとともにひとりひとり目視での確認もしっかりおこなっていく。
幸にも誰ひとり仲間の肩を借りていないし、身に纏っているものが破壊されたり赤く染まっているようにも見えない・・・が、なんとなくいつもと異なる容姿に思えたのは愛染。
わたしは彼の前に立ち、まじまじとその顔をみる。違和感があるのは、髪型?

「・・・・・・な、なんだよ」

無言のままの小首を傾げるわたしにとうとう耐えられなかったのか、彼は降参だと言って利き手で額に掛かる前髪をあげた。

「わ・・・・・」

彼の額には薄らと横に斬り傷が。
流血ってほどではなく、例えるなら紙で切ってしまった程度。
ただ、彼らは新聞紙を丸めた物でふざけ合いうっかり額を負傷したわけがないのだ。真剣で命懸けの戦いをしてきたところなのだ。

「おいおい!大丈夫かよ」

脳内に流れた想像は妙にリアルで一気に血の気を失ったわたしを心配する愛染だが、そんなんじゃ先が思いやられるぜと呆れ果てている。
どうやら彼は敵の攻撃を間一髪で交わしたつもりでも、前髪の一房と額を薄らやられてしまったそう。

なんとか気を持ち直したわたしは、滲んだ視界から見える彼に帰ってきてくれてありがとうと声を絞り出して告げた。

「このあとすぐ手入れ部屋ね」
「おう、頼むぜ」
「おっ、帰ってきたのか。お疲れさん!」

本丸の何処からかやってきた獅子王がお風呂も使える状態だと教えてくれた。

「獅子王も内番ありがと。その、とりあえずみんな解散で。お風呂だったり着替えだったりご自由に。でも各部隊長は夕食前に報告来てくれるととてもありがたいです」

軽く頭を下げて言い終えると、彼らは筋肉をほぐすように腕を回したり武具を外したりしながらそれぞれの部屋へと散って行く。

愛染はこのまま手入れ部屋へ向かうのでまだこの場に残っているが、他にもうひとり小柄なものの姿があった。

そのもえぎ色をした大きな瞳と視線がぶつかると、彼はにこりと微笑んだ。

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