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「人、ほんと少ないね」
「以前はこれが日常だったよ」
「そっかー」
小夜の隣でおいしい食事を口に運びながらあたりを見渡せば、改めて人の少なさに気付かされる。
とはいっても、非番の数が大幅に減ったくらいで彼らは内番に大忙しだ。
新人の清光は同じこの空間にいるがやはり手合わせの合間ということもあり、あまりわたしに接して欲しくなさそうだった。
昨日と同様に襷も解き素肌を隠しているが、箸は問題なく扱えている。彼の気持ちを優先し、ここはそっとしておくべきだ。
しばらく清光を観察しているとその隣の安定と目が合う。
わたしは自らの頬を突き、彼の頬にご飯粒がついてることを知らせてやるとやや恥ずかしそうに笑む。
清光、いつ頃出陣できるのかな。
昨日の調子じゃわたしは技術面に口出しができそうでないし、適切な頃合いが全く見当つかない。
でもいくら頼りになるみんながいたとしても、万が一を考えてしまうと早々に出陣なんて・・・とひとりでかぶりを振る。
「小夜も出陣したい?」
「復讐に行くの?」
わたしの唐突な問いは、大量調理の一仕事を終えほっとしていた彼の目を険しい色にひらめかせた。
傍らの兄たちもはっと表情を固くしてこちらを窺う。
「どうかな、今貰ってる案件にその目的はなかったと思う。わたしとしてはまず自分の身体が鈍っていないか確認してもらいたい、が目的なんだけど」
「うん、それなら行きたい」
「ありがと、早速明日組むね」
「それなら僕も出陣を希望します。使われることなくただ在ることを求められたのは過去なので」
「ありがとう」
わたしの提案に肩の荷が下りたような宗三。
彼は空々しい自虐を理由に述べるけれど、小夜を心配し同伴の希望しているのが心中だ。
「江雪は内番にする?それでもいいよ」
「そう、ですね・・・。しかし守るべきものを守れる程度にはありたい。近頃はそのような葛藤があります」
「確かにね。はー、小夜には本当にいいお兄さんがいて幸せものだ」
「・・・貴女、もう少し主としての自覚を持つべきでは?」
目の前で繰り広げられる兄弟愛に感嘆していると、昼食を食べ終えた宗三はため息をひとつして下膳のため厨房に向かって行った。
わたしは目を丸くし、残る左文字の顔を交互に窺う。
江雪は口元に少し笑みを浮かべながら、誰よりも行儀良く食事を進める。
小夜は漬物に伸ばしかけていた箸を中途半端に止めただひたすらじっとわたしを見つめている。
わかっていたつもりだけど、左文字は口数も表情も控えめで心情を把握するのが難しい。改めて心底感じていると、追い討ちをかけるよう遠くから宗三に片付けが遅くなるのでさっさと召し上がってくださいと言われ慌てて食事を再開した。