31


昨夜足りないとわかったドライヤーなどを発注し終えた頃にはもう部屋が夕陽に照らされていた。
荷物は早ければ3日ほどで政府を経由してこの本丸に届けられるだろう。
みんなの喜ぶ顔を楽しみにしながら、わたしはこっそりと道場へ足を運んだ。

できているのかわからないが自分的には気配を消したつもりで扉を少しだけ開けて中を覗く。
そこにはよたついても立ち向かう清光がいて、その先には髭切が木刀を構えていた。そして清光の背後からは、安定を交わした膝丸が手加減無しに迫り清光の身体を貫きそうな勢いで・・・・・・

真剣ではなくとも彼らの動作は『本物』で、悍しく感じてしまい見ていられなくなった。

「・・・・・・」

そっと扉から離れ、ふらつきつつも道場の壁に預けた背がずるりと滑り落ちる。

「怖い、ですか?」

ゆっくりと開閉した扉から驚きもせず外に出てきた堀川がわたしに問う。その瞳は儚げに笑み、目線を合わせるようにしゃがんだ。

「今すぐにでも強くなりたい。だけど、本能剥き出しの姿をあなたには見せたくない。だそうです」
「・・・きよみつが、言ってたの?」
「はい。僕たちは刀ですから、存在そのものを否定されているようで初めは嫌だなと思ったんですが・・・今は彼に賛成ですね」

どうかこれからも戦を知らないで生きて。

そう口にする彼の浅葱色の瞳も、頬に添えられる手も、やさしさが溢れている。しかし彼は戦の惨さを知っていて、そこが自らの居場所であることも譲らないと主張しているようだった。

涙は赤いジャージの袖に吸われていく。
そして声を殺していたのが逆に過呼吸を起こしかけ、ゆっくり息を吐くことを促される。

「お昼に、避けられちゃいましたよね。強くなりたい一心で手合せしていたら自分が汚れている感覚に陥り、純真なくるみさんには触れるどころか見せられたもんじゃないって言ってました」

そんなこと言ってたらいざ出陣した時なんかどうなっちゃうんでしょうね、帰らないとか言うかもしれない。そう苦笑し戦友を心配する堀川。

「でもそれほどあなたを大切に想っているわけです。あ、お開きにするみたいですよ?中に行きましょうくるみさん。・・・あー、たんこぶとか結構できてるんでお手入れしてあげてください」

わたしの両手を取り立ち上がらせ、先ほど怖くなって覗けなくなった扉の向こうへ手を引かれて入った。


床に伏せている清光がわたしに気付くなり赤く腫れた肌を隠すように市松模様の襷掛けを解く。
わたしは彼の傍らに立ち手を伸ばすと、ぱちんと乾いた音が道場に響いた。

手を払われてしまった。

やってしまったと絶望する顔に構わずお手入れ行こうねと言い、もう一度手を伸ばし絡めとる。
それから手入れ部屋に着くまでずっと彼は黙って俯いたままだった。

服の下に隠された赤黒い部分にそっと触れただけでも清光が痛みに顔をしかめる。
実際に手入れをするのが初めてだから、顔がこわばって唇を噛みしめることしかできなかった。

彼を顕現させるときもこうして自らは無力だと前に進むことを恐れた。
それでももうやるしかないのだ。一度だけ深く呼吸をして、政府の研修で習った通りにおこなう。

力を一点に集中させ、それを放出させる。すると彼の身体からは痛々しい打身などがみるみるうちに消えていき、顔色も少し良さそうに見えた。
本人も元通りになった身体のあちこちを確認して襷を掛け直す。

「・・・主」
「なーに?」
「直してくれて、ありがと」
「どういたしまして。ちゃんとぜんぶできたかな・・・?」
「うん、もうどこも痛くない」

ちょっぴり久しぶりに合わせた目線はまだおどおどしているものの、大好きな清光がこうしてそばにいてくれるのはそれだけで嬉しかった。

道場から手入れ部屋にぞろぞろとついてきて見守ってくれていた彼らにも怪我していないか確認するが、特に心配ないとのことだった。

「けど流石に汗は掻いたし、ごはんまでにお風呂入ってこよっかなー」

首に巻いた布を外しそこに風を送る安定の言葉に他の新選組のものたちも賛成のようで、そうと決まれば彼らは早速踵を返す。

「ほら清光もいくよ」
「え、うん」

安定に手を引かれて清光も手入れ部屋を出ていき、わたしはそれを微笑ましく思いながら見送った。

「非番なのにありがとう」
「いやいや、明日の準備運動も兼ねてさ」

この部屋に残るのは髭切と膝丸、わたし。
まさか彼らがこんなにも積極的に清光をサポートしてくれるとは予想外だった。
扉に背を預けてこちらに微笑む髭切は、特に他人への興味関心が無いものだと思っていた。
だって、弟の名前すら忘れてしまい正しく教えてもらってもどうでも良さそうなオーラを出すのだから。

「遠征とはいえ、気をつけて行ってきてね」
「お土産を楽しみにしていて。主は、うーん・・・何がいいかな。鬼の首?」
「いやー、それはちょっと怖いかな」

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