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朝食後、内番に取り掛かるため各自本丸中に散らばる。

今剣が今日は畑に行ってきますねと腰元に抱きついてきたのを筆頭に、短刀たちが次々に内番先を伝えたり意気込みを述べたりしてから去って行ったので幼稚園や学校の先生になった気分だった。

新人の清光は、新選組の刀たちが1日を通してみっちり手合せしてくれるスケジュールだ。
彼らを長谷部と共に道場まで見送りに来て、みんなに向けて頑張ってねと笑む。
清光も少し緊張の面持ちだが、心強いメンバーがサポートしてくれるので心配は無用だろう。

わたしは長谷部と離れに戻り、今日から本格的に主としての執務を引き継ぐ。
鳴狐のお供と仲良くなったこんのすけも執務室のソファーで待機していて、いよいよだなと身が引き締まった。

こんのすけが政府からの連絡を伝達してくれ、まずは昨日1日の報告書を練習がてら提出してみよとのこと。
といっても出陣はなく、仮想の出陣メンバーで書き上げた。
通信機器で送った書類は政府がすぐに目を通したのか、問題ないとこんのすけが代弁した。
ちなみに審神者不在中の政府との通信履歴・・・所謂メールを見ると、文章が所々博多弁になっていて口元が緩んだ。

報告書とは基本出陣回数に比例して増えていく。この本丸は既にいくつもの部隊が結成でき、また演練も出来る限り参加したいと考えている。手入れもそこそこ必要になるだろう。だからすべてがうまく回ればわたしは離れと手入れ部屋の往復生活が待ち受けているのだ。そこで少しでも効率的に報告書が仕上げられるかを努力したいと思う。

なお部隊編成や内番の割り振りは引き続きまだ長谷部が中心におこなってくれるので、ここの本丸は本当に優秀だなと改めて感心してしまった。

そしてこんのすけに無理は承知で明日より行ける調査や演練がないか尋ねると政府からいくつかの案件をもらえ、これには長谷部の目も喜びに燃えて見えた。

「じゃあ長谷部を第一部隊の隊長に。この調査へ連れていきたいものはあなたに任せる」
「よろしいのですか・・・?」
「うん。長谷部を頼りにしてる」
「ええ、ご期待に応えられるよう尽力します」

長谷部は隊員を指名し、他の部隊編成と出陣先を決めて行った。
彼らに伝えるのは昼食の際で良いだろう。
また、今回選出されなかったものたちのケアもしっかりとしていきたい。明日のメンバーが安心して帰ってこれる本丸を維持することも大切なのだと伝えるつもりだ。


「主、そろそろ昼食になります」
「ほんとだ」

きりがいいところで離れから出て廊下を歩いていると泥だらけの今剣が駆け寄ってきたけれど、彼が飛びつこうとしたぎりぎりのところで長谷部に早く着替えてこいと一喝されUターンして行った。

庭木の剪定を任されていた陸奥守と歌仙は夢中になっていたようで、気持ち声を張り上げお疲れさまお昼だよと教えてあげる。

廊下を歩いていると次第に美味しそうな香りが強くなる。もしも迷子になっても鼻を効かせるだけで辿り着けそうだと長谷部に言うと、短刀たちが主と隠れんぼをしたいがあなたは霊力や香りでも居場所がわかってしまいそうだと話していた事を彼が話してくれた。

「そんなに匂う・・・?霊力も、よくわからない」

自分の匂いがそんなにも強いのだろうかと心配になり袖など嗅いでいると、長谷部の肩に乗っかるこんのすけは本丸に刀剣男士が多いほど維持するための霊力を必要とすると言う。

「くるみさまの霊力は新人ながらもこの本丸を維持することができるのです。言い方を変えますと、くるみさまとご縁がなかった場合この本丸は消滅あるいは解体されていたことでしょう」
「・・・そう、ですか」

わたしもぞっとしたが、流石の長谷部もこんのすけの言葉に身の毛がよだった様子。

「維持に必要な霊力って?だって現にわたし何もしていなくてもそれができてるってことになる」

「大前提として、刀剣男士は付喪神で各々神気をお持ちです。そこに審神者が霊力を注ぎ顕現していますね。しかし顕現させた審神者がなんらかの理由で不在となれば、彼らの身にはぽっかりと穴が空いている状態。その穴は各々の神気や練度等高ければ応急処置できるようですが、不十分であれば人の身を保てず刀身に戻ってしまうでしょう。とはいえいつまでも応急処置のままではいけません」

「そこで全員分のその穴埋めをわたしが」

「はい。顕現から時が経つほど他の霊力を受け入れにくい傾向、と政府は見解しています。ただその理由が信頼関係や神格なのか等はまだ・・・」

なんだか尻すぼみなこんのすけから当事者の長谷部に目を向けることはできなかった。勇気が、でなかったから。

けれど彼はそれを悟ったのか、俺は大丈夫ですよとだけ言う。

その藤色の目は真っ直ぐにわたしを見つめていた。

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