28
清光の大声で目を覚ました。
なんだか言っているけど起きたてほやほやの頭では何ひとつ理解できず、とりあえず上体を起こそうとしたら片腕が重くてそれは失敗に終わった。
「・・・?」
鯰尾みたいな寝癖がついた清光から自分の傍らに視線を移すと、腕に安定が絡まっていた。
「なんでお前がここで寝てんのー!」
「・・・うー、揺れる。目が、まわる」
清光がわたしの身体を跨ぎ、逆サイドの彼を剥がそうとする。
ローベッドとはいえ3人分の重さと動きが加わればそれなりに揺れるので、乱暴に起こされた安定は不快感を抱きわたしの腕にますます絡みつく。
しかし清光も負けじと寝起きの身体に力を込めて離れろ離れろと安定を床に転げ落とし、わたしの反対側の腕に身を絡める。
「うう、痛いなあ・・・」
「やすさだ、きてたの?気付かなかった」
「清光ばっかりずるいから、清光がよくて僕が駄目なの?」
「え・・・そうじゃ、ないけど」
こちらの彼は前髪が見事に逆立っている寝癖でおでこ全開。潤んだ青い瞳にたじろいでいると、その額は清光の中指で弾かれた。
「明日からお前と、今夜だけは主と寝るって決めてたのに・・・!」
「・・・・・・それ、本当?」
その言葉に安定の大きな瞳がより一層開かれる。清光は不満だけをぶつけたつもりがつい彼を想う本音までも口走ってしまい、恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にしてばたばたと洗面所に逃げてしまった。
「・・・よかったね、安定」
額の赤い点を撫でてながらそう言うと、彼は喜色満面だった。初めてこんなにも心から笑う子を見たかもしれない。
その後、3人で洗面所に行ったり鏡台前で身だしなみを整えているとジャージ姿の長谷部が朝食を知らせにやってきた。
彼は安定もいたことに思わず二度見していた。
4人で朝食が準備されている部屋に到着すると、既にだいたいのものが揃っていた。基本的には出来るだけ全員で食事をする決まりだが、昨夜飲み過ぎたものが数名いてまだ布団の中にいるそうだ。
アルハラ用に常備していた薬がいくつかあるので渡してあげるべきか問うと、安定がたまに恐ろしいことになるが薬研に任せておけばいいと答えた。あまり深掘りすべきじゃないと判断し、へえ・・・と短い反応だけして出来立てのおみそ汁をすすった。
おみそ汁は白みそが使われた優しい味だった。
そういえば昨夜鯰尾が朝食を担当すると言っていた。席から彼を見つけるとすぐこちらの視線に気が付く。おいしい、と口パクすればちゃんと伝わったらしく屈託のない笑みを浮かべる。
「うー、お魚嫌いなりそう・・・」
「初めてなのに上手だよ、清光」
難しい顔をした清光が初めてひとりで魚を食べている。
箸の持ち手はだんだん下がってまた持ち直しての繰り返しをしているが、一生懸命に骨を取り除いたり可食部を摘んでいるのだ。
ゲームセンターのクレーンゲームを横で見ている気分に似ていて、つい救いの手を出してしまいたくなるのだがきっと昨日のように鬼の副長さん譲りな厳しいお言葉が飛んでくるに違いない。
「誰だっけ、顕現したての頃骨まで食べちゃってたの。兼さん?じゃないなあ」
「馬鹿ちげーよ!同田貫だろ」
「あーそうだった。喉に骨が刺さって手入れ必要になったんだよ」
「ええ、そんなことが・・・」
魚の骨と戦う清光を見守りながら自分の食事を進めていると、安定が骨に関するエピソードを話し始めた。
戦闘以外にも手入れを必要とする機会があるとは驚きを隠せずうっかりそれを言葉にしてしまっていた。
だから話の主役となっていた同田貫は顔を真っ赤にしてそれは随分と昔のことだしもうそんなヘマはしないと声を大にした。