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結局、宴会の別れ際までずっと言えなかった。

蔵の方まで来てくれたときも、着替えに部屋へ来たときも。機会はたくさんあったけれど・・・。

入浴後、歯磨きをしながらもため息ばかり出てしまう僕の髪先からはぽたりぽたりと水滴が落ちる。
ドライヤーが空かないので先に歯磨きをしているが、この本丸ではこんなの日常茶飯事だ。
前の清光なんかは髪が傷むから何がなんでも早く乾かしたいだの言っていたなと思い出す。今の清光もさほど変わらぬことを言いそうだし、今も離れてくるみに可愛がられたくててきぱきと就寝準備に励んでいるんだろうか。

新しい主のくるみは、か弱そうな女の子だった。
以前の主は新選組にいても戦略家として活躍できそうな切れ者だったため、実際に戦を経験したことがなくても頼れる主だった。
ところが今回の子はどうだ。彼女は沖田くんが病に蝕まれてしまったときのような細い腕をしていて、小さくて、言葉も拙く正直頼りない。
けれど今日彼女が転移装置でやってきた直後から霊力の優秀さが伝わり本丸のみんなは大層驚いていた。
広間での挨拶はとんでもなかったが、清光が宴会中今朝ここに来ることを知ったと言っていて納得した。
とにかく、清光から間接的にきいた話や直接話してみた結果僕たちひとりひとりをしっかりと見てくれるしこんな主も有りかなと早い段階で思えた。

そんなくるみと離れで過ごしている清光をふと想像し、ふたりの距離感がちょっぴり羨ましくなった。
そしてちょうどそのとき、そういえば・・・と洗面台の下の棚から新品の歯ブラシと歯磨き粉を取って離れへと走った。
堀川がもう兼さんのドライヤーが空きますよ!と脱衣所を出る直前に言ってくれたけど足を止めることなく順番飛ばしといてと断りを入れた。


しかし僕の心配は無用だったらしく肩を落とすものの、今度は帰る機会を見失ってしまった。
その理由は、ひとつ目が清光に同室の件を持ち掛ける最後の機会だから。ふたつ目は沖田くんや新選組の仲間たちのような接し方をしてくれる離れが居心地良かったから。

葛藤しているうちに清光がドライヤーしてくれ今までの日常が戻ってきた感覚で嬉しいが、この清光はまだ下手くそで・・・。口から泡が溢れそうにもなるし散々な目にあった。

今度はくるみが髪を乾かしてくれ、主にこんなことさせていいのかわからないけれどくるみなら許される気がした。
そしてへそを曲げた清光は洗面所から戻ってこないし、髪が仕上がったらちゃんと自室に戻ろうと決心をしたんだ。


まだ1日目。これからはもう清光が近くにいてくれる。主とも、仲良くやっていきたい。まだ始まったばかり。これから。そう自分に言い聞かせて自室の布団をひとつ片付ける。


「・・・・・・」


清光はいない。清光はいる。
でも今の僕はひとり。


寝静まる本丸で目蓋を何度閉じても眠ることができなかった。いつもの夢さえも見ないし、眠り方がわからない感覚なんて顕現して初めての夜以来だよ。

水でもひと口飲みに行こうかなってそっと廊下に出たんだけど、気が付けば厨とは真逆の方向に足を進めている。

今まで滅多に行くことのなかった離れは今日だけでも何度も訪れた。その扉は開けっ放しだ。

執務室を抜けくるみの寝室へ行くと、べっどと言っていたそれにふたりで寝ている姿が暗がりでも確認できた。

普段は化粧をしているのか、髪を乾かしているときも今も日中より少しあどけなさが窺えるくるみ。彼女は幸せそうに眠っている。
まだ任務もないし、なんだかこれじゃどこかのお姫さまの護衛でもしている感覚だなあ。

その隣の清光が見せるのは久しぶりの寝顔だ。
昔の僕は沖田くん以外を主と認めたくなかった。けれど清光はいつだってそのときの主を大切にする。前も、今も・・・。
池田屋で折れなくたって元々ひと一倍見た目を気にしてる奴だし、沖田くんを忘れたわけじゃないのもわかってる。
今の僕ももう沖田くん以外の主を受け入れられる。とはいえやはり沖田くんは特別だけど、だからこそ今は主が変わろうと沖田くんの歴史を守りたいんだ。

ねえ清光、お前はいつも僕の前にいるよね。
池田屋でも先に。前の主ともどこかへ。
今の主とは清光が誰よりも信頼されている。
いつだって僕は置いてけぼりなんだ・・・。
でもその都度ちゃんと差し伸べてくれている。苦笑して仕方ないな、って。
でもできればもう前じゃなくてずっと隣り合っていたいな。

起こさないようにそっとふたりが眠る布団に僕も潜った。
べっどはふわふわしていて雲の上のようで、不思議だけど心地よくすぐに全身の力が抜けていった。

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