26


また清光が夢の中で僕に呼びかけている。

お前はいなくなってからずっと。

眠る度にそうやって・・・・・・



「だから、どうやって」

目覚めるといつも清光から言われる事を忘れてしまっているんだ。
今日もまた思い出せず蟠りが残る中、見慣れた天井を布団の中でぼんやりと眺める。

今日は非番だから朝食も食べずに二度寝をしてしまいたかった。いっそのこともう目が覚めなくてもいいとも思う。

清光も沖田くんもここの主もいない現世でどう刃生を送ればいいのかわからない。僕はいつも置いてけぼりだ。清光に限っては二度も僕を置いていった。


熱くなる目頭を枕に押し付け呼吸さえも面倒になってきた頃、障子が乱暴に開き誰かに掛け布団を剥がされる。

「起きろ寝坊助、そしてさっさと飯を食え」
「・・・いらない。お腹なんか空かない」
「国広の作った飯が食えねえってか」

兼さんは足で僕を揺さぶってくるけれど、頑なに起きるつもりはないと布団にしがみついていたから諦めたのか攻撃は止んだ。
しかし部屋を出て行くことなく、ため息を吐きながらその場に胡座をかくのが僅かな視界から見えた。

「明日だぞ」
「・・・・・・」
「俺たちはもう、新しい主とあいつを受け入れる心構えができている」
「僕にはもうできない」
「できないじゃねえんだよ、お前の場合はまだ何にもしようともしていない」

僕は清光たちが帰ってこなくなった日から、本丸のみんなを困らせている自覚が今はある。
最初はその事実が信じられず毎晩清光の布団を敷いていたし、晴れの日は布団も干してやっていた。中途半端な時間に帰ってきても少し食べられるようにと、自分の白飯は食べずおにぎりにして取っておいた。
内番がない時間はずっと転移装置が見える縁側に座って、内番があったとしても急いで終わらせてとにかくいちばんに迎えられるようにしていたんだ。
でも清光たちは本当に帰ってくることはなくて。みんなが僕に困っているのもそこでやっと理解し、もう待つことはやめた。

そしたらなんだか今度は無気力になっちゃって。
そんな頃にこの本丸の継承者が見つかり、そいつと共に新しい加州清光がやってくると話があった。
漸く清光が居なくなったことを受け入れたのに、二度もこんなことがあって次は違う清光だ?僕にはもううんざりだよ。
そうやって誰の話も聞き入れずひとりで部屋へこもってばかりになった。

「おい鈍刀、もしお前が次来る清光と逆の立場ならどう思う。それと、俺らは人の身を得たが刀なんだ!主は選べない。主のために生きる。・・・明日だからな、時間を無駄にするなよ」

どすどすと音を立てて兼さんは部屋を去って行った。
障子を開けっ放しにされたので閉め直したいが、起きるのは面倒なので芋虫のように布団から移動する。
すると廊下にはおにぎりとお茶がお盆に載せられ置いてあった。きっと堀川の気遣いだろう。

僕はそれをそのままの体勢で口に運び、鬱陶しいほど眩しい庭を眺めた。
朝特有の肌寒さのある空気と共に、粟田口の声が届く。
地面に付きそうだ、もっとそっちを持ち上げろ、あと少しだ。と、何かを複数人で運んでいるようだ。


「もしお前が次来る清光と逆の立場ならどう思う」

僕が顕現したときはもう清光がこの本丸にいたから。

「・・・やっと来た。久しぶり安定、また同じ主のもとでよろしくね」
「清光?またお前と一緒か、仕方ないなあ」

「ねー、そろそろ『主』って呼んであげてよ。あの人のこと大切にしてるのはわかるけどさ」
「だって、戦もしたことない奴が僕たちの主ってよくわからないんだ」

「演練って変な感じだね、だってほらあっちにも清光がいる」
「そりゃーね。けど自分だけど自分じゃないって思っといた方がいいよ」


今の僕にとって清光はお前しかいなかったのに、何処行っちゃったんだよ。

でももし、あの清光にとって僕は2振り目の僕だったら・・・そう考えたら身震いがした。
でも違う、兼さんが言っていたのはこんなことじゃない。じゃあなんだ?わからないわからないわからない。考えるのが怖い。

・・・あーあ、僕は以前からこんなにも臆病だっただろうか。

僕は沖田くんのように強くなりたくて日々鍛錬をしてきた。
もちろんうまくいかないことはたくさんあった。その度に清光に手合せを頼んだ。
先に顕現していた清光とは練度の差が多少あっても毎回鏡を見ているかのような手合せになってしまう。けれど、自分を見つめ直すにはいちばんの相手だった。

自分を、見つめ直す・・・。

・・・そうだ。僕は明日、加州清光にこの想いをそのままぶつければいい。
まだ未来が受け入れられなくても、まずは彼に向き合ってみなければ何も始まらない。







「ねえ!これも干したいんだけど、場所はあるかな?」

庭で布団を干している粟田口のみんなが僕の声で一斉に振り向く。

「大和守さん。もしかしてこれ・・・」
「うん、清光の分」
「そうですか、んじゃこちらにどうぞ!」

粟田口の中では背の高い部類に入る鯰尾が長い髪をゆらしながら余っている空間を示したところへ歩み寄り、布団を持ち上げて干す。
久しぶりに押入れから引っ張り出したそれはひんやりとしている。

「・・・明日ですね」
「さっき兼さんがみんなはもうあいつを受け入れる態勢ができてるって言ってた。いつまでもくよくよしてるのは僕だけだって。でももう時間がないし、とりあえず会おうと思えるようにはなったんだ」
「それは大きな前進ですね!受け入れられた理由かあ・・・んー、みんながみんな同じ考えってわけじゃないし少なくとも兄弟たちは、演練で別のいち兄に遭ったときと同じだなと考えました」
「ど、どのいち兄もやっぱり優しいんです・・・!」
「自分の本丸にいる俺っち達のことだけが『弟たち』じゃないんだよな」
「演練中はもちろん双方手加減無しに戦うわけですが・・・別れ際に良かった動きを褒めてくれたり、どんな弟たちにも刃を向けるのは何度経験しても心苦しいとかなしく笑むのです」

鯰尾に続き、五虎退、薬研、前田が演練で出会った一期一振との想い出を語る。

「・・・全くの別人じゃなくて、みんな兄弟」
「そうなんです!そもそも、俺らは燃えて記憶が一部なかったりするわけですけどそれでもこうして仲良くやってますし」
「兄弟、苦しい」

鯰尾は白い歯を見せ、傍らにいる骨喰の肩を抱こうとしたが勢い余って首を絞めてしまっている。

「ありがとう。なんだか少し気が楽になったよ。今日は非番だから自分で取り込みに来るね」
「はい、どういたしまして。俺、またお二人の鏡みたいな手合せが見たいです」

眉を下げて小さく笑う彼に、僕はどうかなと返す。だって今度は僕の方うんとが強いから。

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