25


「・・・・・・これはなに?」

疲労感の残る安定は洗面台の棚に置いといた清光用の歯磨き粉を指差し、いちご?と呟く。

「清光、普通の歯磨き粉苦手だからいちご味がお気に入りなの」
「ええー、それじゃスッキリしないし余計虫歯になりそう。まあなったとしてもお手入れでなんとかなりそうだけどさ」
「いーの、俺のなの」

確かに最初はあのスースーに驚いたけど、と付け足して言うジト目の安定に髪を乾かしてやったら逃げられるしお気に入りの歯磨き粉にケチをつけられた清光はちょっぴり口を尖らせてしまう。
どうやらドライヤーの続きをしてあげるつもりはなさそうで、彼は自分の歯磨きを始め執務室の方へ行ってしまった。

流石に生乾きのままではかわいそうなので、代わりにわたしが安定の髪を乾かすことに。
清光よりも乾かす時間が長く、彼は鏡台に置いた品々を手に取ってみたりして時間を潰していた。

「はい、おしまい」
「ありがとうくるみ」
「どういたしまして。ドライヤーってもう少し数あった方がいい?」
「うーん、まあできたら」
「わかった。考えてみるね」
「うん。それじゃ、僕は戻るね。おやすみ」
「おやすみ」

仕上がりを手櫛で確かめ満足した安定はあっさりと離れを去って行く。清光にも声をかけることがなかった。
そして彼の姿が見えなくなったときくらいで彼が歯ブラシを忘れていることに気が付いたけれど、なんだか今は引き止めてはいけないのではと踏み止まった。

清光は洗面所で口を濯いでいるのか、水の流れる音がした。彼は『いちご味』では虫歯になりそうと言われたせいなのかもしれないが随分と時間をかけて丁寧に歯磨きをしたようだ。





ふたりでも余裕のある広いベッドに潜り込んでそう時間も経っていない頃、わたしは清光にひとりごとのように話しかけた。
「実は、今日はもう安定と寝るのかと思ってた」
「・・・悩んだよ。正直今も少し悩んでる。宴会後あいつとの別れ際、相部屋だろーてきな顔してたし。さっき主が安定の髪乾かしてる間にあいつの部屋行ってみたんだ。布団が、2つ敷かれててさ」

天井をぼんやりと眺めながら清光の話を聞いていた。
そもそも部屋まで行っていたことに驚いたが、そこにあった真実は胸が張り裂けるような気持ちになった。

「でも主と一緒に寝れそうなのって今だけな気がするんだよね。だから今夜だけは主と寝たい」

ベッドサイドの小さな明かりしかないけれど彼のやわらかい笑みが鮮明に見え、今すぐ彼のもとに行って欲しいという言葉を飲み込んでしまった。

「ひとりで離れは寂しいから、別にこれからも時折寝に来てもいい。でもわたしはこの本丸じゃ人気者だから短刀とか先客がいるかもしれない」

お酒が入っているせいか、卑怯でへそ曲がりのわたしがそんな彼へ口にできたのは幼子めいたこと。
それに対し彼は宴会で散々見せつけられたよ、と苦笑する。

「でも主だって俺のこと気にしてたでしょ?その調子で俺がいちばん可愛いってこと、忘れちゃ駄目だからね」

頬が火照り平常心を保てないわたしなんか気にすることもなく、さて今日はもう自然に眠れそうな気がするんだと言って布団をかけ直し本格的に寝る態勢に入る清光。
なんだか悔しいけれどおやすみと蚊の鳴くような声を出せば、おやすみ主と返ってきてすぐに静かな空間に変わった。

[]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -