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左文字が抜けてからどのくらいが経っただろう。

浦島虎徹に兄ちゃん達の揉め事を一緒に止めてくれと頼まれ出動したり、鶯丸に酔っぱらった大包平が実におもしろいから見てくれと庭に連れ出されたり、村正が本格的に脱ぎ出したので燭台切の手で視界を塞がれたりと本丸はてんやわんやの大賑わいであった。

多くのご馳走が並んでいたテーブルには皿だけが残りすっかりみんなのお腹も心も満たされたため、そろそろお開きにしようと長谷部が言う。
彼から皿を厨に運ぶように指示があったのでわたしもやろうとしたら主はいいのですと止められ不貞腐れた顔をする。けれど一歩も譲らず、お風呂に入ってきてはいかがかと提案され結局みんなに今宵のお礼をしてからひとりで離れに戻った。


離れにいても誰かしらの声や生活音が少し聞こえて心地よかった。そして余韻に浸りながら入浴を済ませ、お風呂から上がると清光が離れにいた。

「主おかえりー」
「清光。刀帳借りたの?」
「そ、ねーお風呂こっち使っていいでしょ」

清光は宴会の後片付けを手伝ってから戻ってきたらしく、彼はもう立派な仲間だ。・・・仲間だから、今日からもう安定と同室になるねと言われるのかと思っていた。
安定も清光と打ち解けたことだし同室を望んでいたかもしれない。そう思うとわたしが横取りしてしまったようで複雑な気持ちである。
せめてお風呂くらいは一緒に向こうで入ってくるだろうとも考えていた。

彼は執務室のソファーで長谷部から借りた刀帳に目を通していたが、それを丁寧に閉じローテーブルに置いてこちらに来る。

「ねー、全部顔に出てるよ?」
「・・・なにが?」

清光がわたしの髪からぽたぽた滴るものを肩にかかるタオルで軽く拭い、そして俺って愛されてるねと小さく笑う。

「大浴場は混んでるから離れのお風呂入ろっかなって。シャンプーも主と一緒がいいし」

それじゃあお風呂行ってくるね、と予め用意しておいたらしい着替えを抱えてお風呂に向かって行った。

「・・・・・・」

いつも通りのスキンケアとドライヤーを終えたが、なんだかもやもやするので涼むついでに離れから出た。
月明かりと星明かりの下、遠くの縁側にぼーっと見えたのは人のようだった。
黒髪美人・・・?だが太郎太刀や次郎太刀にしては小さい。その黒髪もわたしに気付き近付いてくる。

「なんて顔してるんですか」

黒髪は鯰尾のものだった。
既にドライヤーで乾かしあとは寝るだけの格好な彼に、電気に慣れているからここまで暗いとよく見えなくてつい人相が悪くなったと伝える。
じゃあくるみさんは夜戦不利ですねと言われた。わたしも前代の主も戦場には行かない審神者なのでジョークなのは当然わかっている。

「わたしは万年不利だって。それより髪、おろしてると印象ちがうね」
「そうですか?」
「美人」
「俺男なんだけどなあ。・・・あ、それにしても本当に加州さんと寝るんですか?」
「うん、昨日も寝てたけど」
「へー?まあいっか、俺明日朝食担当だから早く寝ないと。おやすみなさいくるみさん」
「おやすみ鯰尾」

ひらひらと手を振って軽い足取りで自室へ帰って行く彼が一体何故ひとり縁側に居たのだろうかという疑問を今更ながら抱く。
けれどそれを知る術は無いので、わたしもぼちぼち室内に戻ることにした。
そして長谷部が貸してくれた刀帳を見ていると清光がお風呂から上がったようで、姿は見えないがドライヤーはどこかと問う声がした。
先程わたしが部屋の鏡台で使ったままなので彼をそこに誘導し、お風呂上手に入れたんだねと褒めながらドライヤーをしてあげた。
やっぱりすごい音と言っているもののその間に自らスキンケアをしてる清光は、なんというかとても様になっている。

「昨日も思ったけど、清光前髪があっても可愛いね」
「そーお?」
「でもこうして夜しかお目にかかれない特別感もいい」
「・・・あのさ主、」
「くるみ清光!」

ドライヤー後ブラシで整えていると、まだ前髪が無造作におろされているままの清光が何か言いかけた。けれど、不意に聞こえた安定の声でわたしたちは動きを止めた。

「あ、いたいた!歯ブラシ持ってる?」
「うん、昼ごはんの後ひとつもらったよ。持ってきてくれたんだ?」
「なんだ。持ってたのか」
「咥えたまま走っちゃ危ないけどね、急いで来てくれたのかな。ありがと」

安定は歯ブラシを自分の口に1本咥え、手にあと2本と歯磨き粉を持って離れにやってきた。
就寝準備で歯磨きしていた最中わたしたちの心配をしてくれたのだろう。

「お前髪まだ濡れてるじゃん」
「ドライヤー空かないから先に歯磨きしてた」
「主、ドライヤー借りるよ」

清光は先程まで自分が座っていた鏡台の前に安定を座らせ、彼の髪を乾かし始めた。
やや癖のある髪に温風を当てられた安定は音には驚かず、歯ブラシの心配は不要だったが自分で乾かす手間が省けて得したと機嫌を良くしている。
しかしまだドライヤーの扱いに不慣れな清光は少しばかり安定に近付け過ぎたのか、安定が途中で後頭部をおさえ熱い熱いと飛び上がる。
そしてその瞬間に歯磨き中だった口の端から泡が漏れ、彼は声にならない声を出しつつそのまま離れの洗面所に直行した。

「あーごめんごめん」
「大丈夫安定?」

ワンテンポ遅れて彼を追いかけると、なんとか無事に事が済んだようで安堵からか洗面台でぐったりしていた。

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