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「包丁!そろそろ交代してよ」
「まだ座ったばかりだ、どかないよー」
「えーん大将、俺秘蔵っ子なの知ってるでしょ?」

信濃の言葉に包丁が退くものかとお尻をぐりぐりと押しつけてくる。納得のいかない信濃は腰元に手を回し引っついてくる。

「わー、これが粟田口・・・」

乱に甘味が出てきたよと呼ばれ、広間に戻るとすぐに膝がずんと重くなる既視感が。待ってましたというように包丁がわたしの膝に座ったのだった。
そこに俺もと傍らへやってきた信濃だが、先客は一向に譲る気配がなさそうだ。
また、乱はそんな状況も気にせず寒天おいしいねとわたしに微笑む。

「・・・申し訳御座いません、主」
「あ、そんな。謝らないでいち兄、あ違った一期」
「主の好きなようにお呼びください」
「粟田口の子たちがいち兄って呼ぶからつい。うつっちゃうもんだね」
「そうですね、別の刀派の方も稀につられ呼ばれることがあります」

お酒はほぼ飲んでいないのか、一期一振は弟たちに囲まれて食事をしていた。食事の席では普段から彼の両隣が取り合いなのでこういった形式だと不満の声が緩和され有難いそうだ。
そこにわたしも輪に加わったことで更に一期の周りにゆとりができた。とはいえ、彼にとっては弟たちが失礼に値するのではと肝を冷やしてもいるようにも窺えるのだが・・・。

ビュッフェ形式か・・・好きなものばかりを食べるしあるいは過食になりうるため、毎回この形式では栄養バランスが崩れてしまう。けれど、たまにはこんな形式を取り入れてみたいものだ。

「主、話したかったばい!」
「博多、わたしも。長谷部にきいたよ、通信を担当してくれてありがとね」

紳士に握手を求めてくる博多は頬がほんのり染まっている。少しだけお酒を飲んでいるかもしれない。
彼の活躍は長谷部にきいていたのでそのお礼をすると、最初こそ通信機器の扱いには苦労したものの今では片手間で大好きな株等を始めたそうだ。
元の資金がまだ少なく満足な成果は出ていないと言うが、マイナスになっていない時点でわたしにとっては凄いことである。

通信に関しては主の仕事としてわたしが引き継ぐが、機器はそのまま彼に預け株等好きにやらせてあげようと思う。ただし他のものが使いたがっていたら貸してあげることと、利益での買い物はわたしの許可を得ることを条件に挙げた。
買い物という言葉に彼らはわっと夢を膨らませる。
乱はいい匂いになれる物を、薬研は書籍を、五虎退は画材を。
包丁はお菓子と人妻を、と凄いことを言ってたが誰も人妻には突っ込まずお菓子は洋菓子が食べてみたいという話題で盛り上がった。

そんな粟田口たちとひと通り交流した後、一期は弟たちにそろそろお風呂へ入ろう言った。
お開きになる前に粟田口が入っておけば風呂場がごった返すことも回避できるし、この子たちが何百年も前から生きていると言っても一期からしたらやはり彼らは可愛い弟なのだ。
そんな彼らを見てきょうだいや家族のあり方なんてそれぞれでいい、何故現世ではあんなにも問題となるのかと思ってしまう。

お先に失礼します、そう言って礼儀正しく広間をあとにする彼らに手を振り見送る。

そして宴会は続く中で、粟田口ではない短刀の姿が視界に入った。

「小夜はお風呂まだいいの?」
「入れてあげたいところですが風呂場が混んでいるでしょう、もう少しずらします」
「そう、ちょっと眠たそうだね」

鮮やかな青い癖っ毛を撫でる。粟田口の子のように擦り寄ってくれたりなどはないが、大人しく触れさせてくれている。
彼にもう少しの辛抱だと宗三が励ます。こくりと頷く彼は今日畑当番で精を出したという。
先程まで山になっていたポテトサラダのじゃがいもや、煮物に使われた大根。それらをこの小さな小夜が収穫してきたのだと江雪が教えてくれた。

「貴方は随分とこの本丸の方々にお詳しいんですね」
「そう?まだ文献で学んだこと全て頭に入ってるわけでもないし、何より人の身を得たあなたたちは十人十色だから自信はない」
「お小夜の事も、ご存知なのでしょう?」
「・・・うん」

宗三は今もなお復讐に取り付かれる弟をわたしがきちんと受け入れているのかどうか見極めている。傍らの江雪も同じだ。穏やかに装っているが末弟の心配でならないはず。

もう一度、小さな彼の頭を撫で小夜にはみんながいるからと言う。
少し眠たい瞳はまたこくりと頷く。

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