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「・・・飲みやすい」
「でしょ、良い酒ってのはこういうもんだよ」
「これ現世のお酒だよね、どうやって入手してるの?」
「前の主が酒好きでよ、蔵にまだまだ遺ってるぜ」
「そうなの・・・じゃあその在庫管理はあなたたちに任せるからよろしくね」
「はあーい!」

次郎太刀の手慣れたお酌で飲む純米大吟醸は癖がなく後の鼻から抜ける香りもいい。安い居酒屋で受けるアルハラとは訳が違う。
そして日本号は次郎太刀が別のお酒を注ぐ度にその特徴を説明してくれ、太郎太刀はそれに合うつまみを厳選してくれた。

また、日本号がぐい呑みを傾けたときにその中身がきらりと光った。

「あ、螺鈿・・・?」
「おー、よく気付いたな嬢ちゃん」
「あなたにも使われているもんね、とても綺麗」
「室内戦ばかり続いて俺の出番が無かった頃に前の主がくれてな、それ以来これは俺の相棒だ」

俺だって二刀開眼、なんて手刀を切るように決める彼は白い歯を見せて笑う。
長谷部も言っていたが政府からの出陣要請とはいえやはり武器である故、出陣メンバーが偏り過ぎてはよくないとわかった。何事もバランスよく、それを心がけようと思った。

「あれ、主ー。外で御手杵が呼んでる」
「ほんとだ。ちょっと行ってくる」

次郎太刀が庭で御手杵の手招きをしていることに気付き、わたしは広間からそちらへ向かった。

「御手杵は焼き物担当なんだ」
「うーん。焼き物っていうか、刺す係?」
「あーね、でも意外と真っ直ぐやるの難しいんだよね」
「そうか?ほら、これは主用だって言われたんだ。熱いからな」
「ありがとう。誰に言われたの?」
「・・・えー、あー。誰だったかな、忘れた」
「くるみさん、御手杵!」
「おー鯰尾に骨喰、お前らも食うか?ちょうど良さそうなのあるぞ」
「食べる」
「お願いしまーす」
「・・・鯰尾は名前で呼んでくれるんだね」
「そーですね、せっかく名乗ってくれたならって思って!」

御手杵に熱いから気を付けろよと言われながら串に刺さった焼き物を受け取るふたり。
鯰尾は熱いと言われたのにも関わらずすぐに大きな口で大胆にひとかじりしたためはふはふと忙しなく食べる。
一方の骨喰は、焼き物を手にしたまま傍らの炎をぼんやりと見ていた。

「骨喰、火が苦手?」
「そんなことはない」
「燃えたからと言って流石にこの程度じゃびびらねーよな。うまい飯を作るには火が欠かせないしな」
「ああ。それにもう、良いんだ。思い出ばかり追いかけると『今』があっという間に過ぎていく」

燃えた過去をもつものは骨喰や鯰尾だけじゃない。この本丸でもたくさんいて、御手杵だってそのひとりだ。彼は昭和に入ってから空襲で焼けた。
そのときはただ燃え盛る炎の中で焼かれいくしかない。炎が憎い。そんな風に思っていただろうか。
想像しただけで胸が苦しくなるが、ここの彼らは思った以上にたくましい。

「そうだよね、過去を遡るにも時間は経ってる」
「兄弟は記憶を探してばかりいて以前の主との想い出が少ないことを気にしてるんです」
「・・・そっか」
「だから、もう過去ばかりにはとらわれない」
「もし大阪城に、出陣要請がでたときは・・・出来れば行きたくない?」
「行く」
「それはなんで?」
「今は兄弟たちがいる。もうひとりじゃない」

炎の中で薪が乾いた音を立て、彼の瞳にゆらりゆらりと赤く色を付ける。けれどその凛とした瞳にはもう迷いがなかった。
鯰尾が俺も行きますよー!と言って骨喰とわたしの間に立ちわたしたちの首に腕を回す。

「兄弟、俺のイカ焼きが落ちてしまうところだった」
「主と今を大切にしてるんだろうけど、そのイカも早く食べないと冷めちゃうって」
「・・・鯰尾、お酒くさい?」
「ええー、そりゃ俺らだって呑みますよ!何年生きてると思ってるんです?」

聞き覚えのあるフレーズだった。
清光にスマホを貸していたときのことだ。

そんな彼はこの宴会中ずっとくっついていると思っていたのだが、気が付いたら親しい戦友たちと賑やかに過ごしていた。
他の刀たちとの交流も含めた宴会でもあるし、彼なりに気を遣ってくれたのかもしれないが今もあんなにも楽しそうにしている彼を見るとちょっとさみしいかもしれない。

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