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昼食を担当した燭台切と太鼓鐘貞宗そして大倶利伽羅にとてもおいしかったとお礼を伝え、洗い物は手伝おうかときいたが荷ほどきをしてきていいよというお言葉に甘えこうして離れへと戻っている。

太鼓鐘は主と初めての食事だから豪華にしたくてみっちゃんたちと頑張ったんだ!と、有頂天な喜びを見せた。
大倶利伽羅に関しては特に何も言ってはこなかったが、無事に済んでほっとしている様子だった。

また、わたしと清光と長谷部に続いて離れに戻ろうとしていた安定は僕は午後から風呂掃除だった!と言って本日二度目の走り去る背中を見送った。

長谷部は今、執務室で個人の部屋のマップを書いてくれている。終わり次第こちらの応援へきてくれるそうだ。

そんなわけで歯磨き後のわたしと清光は絶賛荷ほどきタイム中なのだが、物を出す度に清光が不思議そうな顔をするのでついつい教えてあげたくなり作業スピードは遅めである。
今度は割れないようにとしっかり梱包しておいた香水を鏡台に置くと、彼は目を輝かせた。

「可愛い瓶」
「香水、ってわかるのかな?要はお香の効果がある液体」
「お香・・・主のにおいがする」

キャップを開けなくとも少し漏れてくるにおいをくんくんと嗅ぐ清光。アトマイザーも持ち歩いているので昨日も今日もわたしから匂うこのにおいが彼にとってはわたしの匂いという認識らしい。なんだか嬉しい反面ちょっと照れる発言でもある。

「しゃんぷーやはんどくりーむとも違う匂いはこいつだったのかー」
「清光においに敏感なんだね」
「みんな最初はそーなんじゃない?なーんでも珍しいから。俺は今、そのなんでもを、主にたくさん教えて、もらってる・・・愛されてて、あいされてる」

いつまでも香水を嗅いでいる清光の口調はだんだんスローテンポになってきて、あくびを噛み殺していたりもした。
また満腹中枢が刺激されたのかもしれないが、彼は寝不足でもあるはず。今朝は一体何時から起きていたのだろう。

「清光」
「んー」
「眠いんでしょ、寝てていいよ」

わたしは政府にローベッドを希望しておいた。だからこの部屋には希望通り設置されている。まさかシングルよりも大きいサイズとは思わなかったけれど、とにかくすぐにでも横になれるのだ。

清光、清光くん。何度か名前を読んでみたがどれもむにゃむにゃとした生返事な彼。だからもう両手を引いてベッドまで連れて行った。
大人しく横になった清光はふかふかの真新しいそれに沈む。自分は床に座りながらその身体をとんとんしてみたらすぐに小さく寝息が聞こえた。

この清光は本当に赤ちゃんみたい。
甘やかし過ぎも彼のためにはならないってわかっているけど、明日から厳しい鍛錬が待っているから今日くらいいいかなと思う。
しかしまた夜眠れなくては困るのでほんの少しだけ休ませてあげるつもりだ。
さてそれまでは荷ほどきを進めておこうか、と身体の向きを変えたらふと視線を感じ入り口を見る。

「あ!ご、ごめんなさい」
「いいよおいで、でも清光寝てるから静かにね」

私室の出入り口で団子のようになってこちらの様子を窺っていたのは3人。乱藤四郎、秋田藤四郎、五虎退。
執務室にきた彼らは仕事中の長谷部が通してくれたのだろう。中に呼んでみるとたくさんの大きな瞳に囲まれる。

「主君、勝手に入ってしまいごめんなさい」
「いいよ、何かご用だった?」
「あっ、あるじさまとお話がしたくて」
「ボクはね!あるじさんが女の子ってきいて楽しみにしていたの」

秋田は桜色の頭をぺこりと下げ、五虎退は自身の裾を握りしめて精一杯に喋る。乱は無邪気に抱きついてきて頬を摺り寄せる。

「髪の毛さらさらでいい匂い」
「そう?あなたの方がさらさらの艶髪だよ」
「そうかなあ?」
「うん。じゃあこれつけてみる?洗い流さなくていいトリートメント」
「とりいとめんと?秋田知ってる?」
「初めて聞きました」
「僕も知らないです・・・」

先程鏡台に置いた洗い流さないトリートメントをワンプッシュ掌に取り、乱の髪に馴染ませる。

「わあ、いい匂い!演練で他のボクもこういう匂いがしたから羨ましかったんだ」
「そうなの?むしろここのみんながどんなシャンプーとか使ってるか気になる」
「み、みんなで同じ物を使っています。えっと、前のあるじさまもでした・・・」
「確か業務用、というのを頼んでいるそうです」
「なるほどね」
「あ、あのあるじさま・・・!加州さんは体調が悪いのですか?」
「あー、寝不足なの」

五虎退は清光を不思議そうな顔で覗き込んでいた。
みんなにはもう当たり前のことかも知れないが、と前置きをして顕現したばかりの清光は眠り方がわからなかったりまとまった睡眠が取れないためこんな風に仮眠を取らせているのだという話をした。
すると彼らは自分たちが顕現したばかりの頃を思い出し各々教えてくれた。
乱がきた頃の本丸は今ほど賑やかでなく、やっぱり眠るって何だろう?と思いながら何となく目を閉じていたそうだ。
一方の秋田も乱や五虎退たちとほぼ同時期に顕現したようだが、お風呂後みんなと涼んでいたら寝てしまいそのまま布団に運ばれ次に目を覚ましたのは朝だったという。

「やっぱり眠り方がわからないけれど言われた通りに目を閉じました。そして昔の夢を見ました。でも、そのときは夢ということもわからず・・・その、それで・・・・・・」

ふたりは懐かしむように語った。けれど最後に語ることとなった五虎退は良い思い出ではなさそうで、涙ぐみそうになり唇をかみしめる。

「僕が言うよ五虎退。眠りながら泣いている五虎退を加州さんが起こしてくれたそうです」
「・・・・・・」
「はい、そうなんです・・・それで、それは夢だから大丈夫と眠れるまで、とんとんって」

夢をみて夜泣きしていた五虎退を、以前の加州清光が面倒みていた。・・・そんな想い出があるから五虎退は清光のことをじっと見ていたんだ。

「・・・・・・そっか」

じゃあ清光が泣いていたり落ち込んでいたら、今度はあなたたちが清光を慰めてあげてね。そう言うと3人は口をそろえて、はいと微笑んだ。

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