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三日月との茶会はちょうどいい頃合いで長谷部が昼食へ呼びにきたのとともにお開きとなった。

湯呑みを回収して載せたお盆を持って行こうとしたら長谷部に持っていかれてしまう。けれど手持ち無沙汰になった手は清光が必要としてきて、それをみた三日月がどれ俺もと反対の手を取った。
三日月の手は体温が高くない清光よりももう少し低い。

「刀らしく主の近くに居るのも悪くないな」

月を持つ瞳があまりにもよく見えた。息をのむほどの美しさに目が奪われる。ぞっとするほど美しいとか、そういう言葉が表すのはまさにこれのことだと思った。

そして食事の準備ができたという部屋に向かう途中から良い匂いが漂っている。その中に入ると既にみんな揃っていて、長谷部は揃ってから呼んでくれたのがわかった。

「初めまして。こんなに可愛いお嬢さんが主だとはね。洋食の方が良かったかな?今日は僕が作ったんだけど」
「ありがとう、和食すきだよ。よろしくね燭台切」
「うん、それなら良かった。加州くんもよろしくね」
「よろしく。すごいね、同じ刀がこんなに立派なごはん作るなんてびっくりした」

清光が本日の料理当番だった燭台切光忠を褒める。燭台切もそこまで言われるとは思わなかったのかその片目は少し驚いていた。
彼は好んで厨に立つことが多いが基本的には食事作りも内番のひとつとして当番制だという。
あまり手際が良くない日には自分でごはん取りに行くんだよ、と安定が教えてくれた。想像したのはごはんを自分でお茶碗に装ったりするセルフサービス化。みんなこれだけの大量調理が大変なのを知っているから助け合い精神が身に付いているのだろう。そんなときはわたしも出来るだけ応援に呼んでもらえるようにしたいところだ。

席に着くと、隣に清光その隣は安定。反対側の隣には三日月、長谷部と続いた。

安定には随分と気に入られたのかもしれない。
正直引き継ぎとは思っていなかった頃から彼との距離の詰め方に悩んでいた。何故なら顕現したばかり彼が沖田総司以外の主を認めようとしないと予想していたからだ。
それがこんなにも懐いてくれるとは。そう考えていたら突然視界が塞がれ膝の上に重みを感じた。

「ごはん食べさせて!」
「え・・・?」
「は、何こいつ」
「包丁!主、とんだご無礼を」
「わー!何でだよいち兄、せっかく人妻への道に一歩近付いたところなのに!」
「・・・これが噂の」
「噂になっているのか?包丁も大したものだな」
「三日月殿、そのようなお言葉では包丁が反省いたしません」
「えーっと、包丁・・・自分のお席で食べよっか?」
「いじわる主」
「え、あ・・・」
「いーんじゃないほっとけば」

急に膝へ乗ってきた包丁藤四郎は一期一振に回収され元の席へと戻される。その際にいじわると言われて少々へこむが、彼が暴れて残したわたしの服の乱れを清光が正しながら不満げに口を尖らせていたのでなかなかに忙しい。


全員での食事は圧巻である。美味しいねなどと聞こえ程よく賑やかだ。
そんな中、わたしは時折あちこちから視線を感じる。一際送られる視線の先にはお茶碗片手にお箸を咥えたままの今剣。視線が合う度ににこっとする。可愛い。けれど食事がちっとも進んでいないのが気になるところだ。
しかしわたしも周りを気にしてばかりではみんなに遅れをとってしまうし、せっかくの出来立ての食事が冷めてしまうので目の前の燭台切が腕によりをかけた料理に集中することにした。きっと、わたしが集中すれば彼も食べ始めるはず・・・・・・


煮物はにんじんやれんこんが花形にされていたり、よく味が染み込んでいてとても手をかけているのがわかる。
茶碗蒸しもこれだけの人数作るのは大変なのにすが入らず口当たりがよくておいしい。

今日この日のために頑張ってくれたのがおおいに伝わり、ついつい視界が滲み袖を目尻に当てた。

「たいへんです、あるじさまがないてしまいました!」
「主、お口に合わなかったかな?」
「えっ、違うの!とてもおいしいし、今日のために手の込んだものを、その、嬉しくて」
「そっか、良かった・・・」
「それにしても今剣よ、主ばかり見ていて食事が進んでいないぞ」
「ぼくはまだあるじさまとおしゃべりをしたことがないです。でもめがあうたびににこりとしてくれて、それがうれしくてつい。ごめんなさい!」
「今剣、あとでおしゃべりしようね。それで、あの、このお花のにんじんおいしいよ。食べてみて」
「・・・はい!」

今剣は飛び上がりそうな勢いで返事をし、大きな口を開けてその花を放り込む。

「おや珍しい、貴方はいつも岩融かお小夜の方へとこっそり避けるのに」
「・・・僕は別に嫌いじゃないからいいけど」

今剣の隣に座る小夜左文字とそのまた隣の宗三左文字が彼の日常を暴露。そして小夜左文字はにんじんを入れられている事に知らぬふりをしていたそうだ。
そっか、ここの今剣はにんじんが苦手なんだ・・・。そう把握してしまってからの彼は咀嚼するにつれ笑顔が薄れ、別の食べ物を掻き込んでいた。

「清光下手だなあ」

今剣たちばかり見てしまっていたら、横の方から安定の声が。どうやら清光の箸から里芋が逃げ出したようだった。
そういえば清光にはおみそ汁で箸を使わせただけだった。
2日目からゆっくり上達すればいいと思っていたし、他にはあえて手で食べられるおにぎりにしたりスプーンやフォークで食べられるものを選んでいた。

「和食だけどフォークもらう?」
「甘やかしてばかりじゃ良くねえな」
「兼さんだって最初の頃はうどん1本食べるのにも大変だったもんね」
「そ、その話はしなくてもいい!」

「・・・うー、もうちょっと頑張ってみる」
「そっか、えらいね清光」

その後、何度目かにして見事に里芋を頬張る清光にみんなが歓声を上げた。
先ほど甘やかすなと言っていた和泉守兼定は清光の傍らにきて彼の頭をぐしゃぐしゃとかき回した。
もちろん清光は髪を乱され怒っていたけれど、そんな彼もそれ以上に嬉しそうで何よりだった。

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