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「そうだ!あ、さっきからそうだばかり言っちゃってるんだけど・・・、わたし三日月宗近に会いたい」
「三日月宗近は非番です。呼んできましょう」
「あっ、でもできれば自分から行きたいの」
「ではご案内を」
「俺も行く」
「僕も」

わたしの声で一同が立ち上がる。彼らは単純なひとつの動作にも個性が出ていた。
長谷部は誰よりも早く無駄のない動きで、清光は服のよれなどを確認しながら。安定はいちばん最後にのんびりとソファーから立ち上がり伸びをする。
そんな彼の目元に手をやれば大人しく触れさせてくれる。まだ少しぽかぽかとしていて、ここにきたときよりずっと腫れの引いた目元だ。
泣き腫らした姿も気になっていたが、実は広間にいたとき隈らしきものも気になっていた。
前の加州清光が不在になり、相部屋にひとりで眠るのはさぞかしつらかっただろう。そしてもしかしたら漸く心の整理ができた頃にこうして清光が来るときいたかもしれない。
彼はかつての主、沖田総司を病で亡くしている。誰も歯が立たない剣捌きの主が日に日に弱っていく姿にずっと寄り添った。そしてその前には戦友の加州清光が折れ、また今回彼を失った。だからもう絶対に苦しませたくないのだ。
結果、あんなにも泣かせてしまったがだからせめてその腫れた目元をどうにかしてあげたかった。

「・・・何?」
「もち肌だね」
「餅?肥えてるって言いたいの」
「ち、違う違う!褒め言葉なんだけどな・・・きめ細かくて、なめらかって」
「そう、それなら良かったよ」

清光が自分の肌はどうだとわたしの手を頬に持っていき滑らせる。清光ももち肌だし美白肌だ。そう伝えればご満悦の表情を見せた。



ぞろぞろと廊下を歩き三日月宗近のもとへ向かいまずは彼の部屋へ行ってみたが不在で、安定が部屋じゃなければあそこしかないと足を早めた。

「くるみ、こっちだよ」
「おい大和守、主を引っ張るな」
「そーだよ腕取れちゃったらどーするのさ」
「さらっと物騒なことを・・・」
「ほらいた!」

三日月宗近は縁側でお茶を飲んでいた。
その横顔は遠い遠いどこかを見ていて、シンプルな内番服でさえ品の良さが滲み出ている。

「・・・・・・ほんとだ。三日月宗近、初めまして」
「おお、くるみと言ったか。よろしく頼むぞ、主」
「よろしく」

噛み締めるように彼の名を呼べば、ゆっくりとこちらを向いて笑む。

「主も茶はいかがかな?」
「いいの?」
「今日は非番だ。長谷部、茶を用意してくれるか?」
「主、少々お待ちを」

三日月宗近は長谷部にお茶の用意を頼むと、わたしに微笑み自らの傍らを手でぽんぽんと示す。失礼しますと一声かけて静かに縁側へ腰掛けると、それに続くようにして清光と安定がわたしの隣を奪い合う。
言葉にならず苦笑いでごまかす。すると三日月宗近は持ち前の器の大きさを披露する。

「元気で良い、そして好かれることはとても良いことだ」
「あなたも多くのものから好かれてる。三日月宗近、わたしあなたの願いを叶えるために頑張るね」
「・・・願い、か。では主の願いは何だ?」
「わたしの?・・・うーん、仕事としてなら正しい歴史を守りたい。私的なら、この本丸で大往生するまでみんなと暮らしたい」
「若き主にとって、正しい歴史とは?」
「正直昨日清光に教えてもらったばかりで、それまで全くわからなかったよ。あのね、現世に伝わる歴史は一部でしかない。真実はその瞬間そこに生きてたものしか知らない。だから本来正しい歴史なんて人が堂々と語るべきではない。でも幸いわたしはこうしてあなたたちからきくことができるなら、その力を使って『今』を守るには不可欠な要因・・・かな」
「・・・・・・そうか。ではその願い、俺は必ず叶えよう」
「俺いいこと言っちゃったねー、ちゃんと褒めてね主」
「うん、ありがとね」
「主、お茶の用意が出来ました」
「わあ、ありがと長谷部」

長谷部が熱々のお茶を用意してくれ、わたしたちはそれを受け取る。すると彼の分が足りず首を傾げた。
しかし昼食の頃呼びに戻るのでそれまでに着替えを済ませると言う長谷部をみんなで見送り、残るメンバーでお茶を楽しむことにした。


・・・ああ、なんだか三日月宗近がこうして迎え入れてくれたので正直心の底から安堵してしまったな。
優秀な審神者のもとで育った彼らには所謂チェンジと言われてもごもっともな意見だ。
でも代表して政府に本丸の存続を懇願した三日月宗近がこうして継承者として認めてくれるのならあとはもうがむしゃらに生きるしかない。なんて考えていると、鳥の鳴き声が聞こえた。

「この本丸は鳥がいるんだね」
「おや、現世にも鳥はいるのではないか?」
「いるよ」
「昨日の研修本丸では風すらなかったからねー」
「ええ、そんなのちょっと不気味じゃない?」

「そうか。・・・無というのは、どんなところなんだろうな」

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