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この本丸での破壊なる扱いは例の加州清光のみで、大和守安定だけでなく全員がショックを受けた。
そう何度も破壊があってたまるかとは思いながら、スーツケースと清光の衣類を持ってくれている長谷部の話に耳を傾けていた。

「演練や出陣先で別の我々と遭遇することはありますので、理屈的に理解はしているのです」
「ああ、なるほど」

内番で庭や廊下を掃除するもの、通りかかった自室からこっそりと覗き見る非番のもの。あちこちから視線が集まり、せっかく長谷部が大切な話をしてくれているのに集中できない。
おまけに清光はコンパクトミラーを見ながら廊下を歩くのでそれは危ないよと言えば腕を絡めてきてこれなら大丈夫と言う。歩きスマホならぬ歩き鏡だ。

「おーい清光」
「わー懐かしい、久しぶり長曽祢さん」
「まあそうなるよな、またよろしく。可愛い主もな。ところで安定が清光がなんとやらとすごい勢いで蔵の方へ走って行ったが」
「わー、ほんと面倒なやつ」

真っ赤なジャージに身を包む長曽祢虎徹が鍬を担ぎこちらに向かってやってきた。
彼も正装から着替え、畑仕事の最中だったのだろう。
コンパクトをしまい彼に笑みを浮かべる横でわたしは軽く会釈をした。
そして彼が見かけた大和守安定の様子を聞き、清光に行ってあげてと絡む腕を優しく解く。

「うん。ごめん主、長谷部。ちょっと行ってくるね!長曽祢さん、その蔵ってどこ?よかったら案内してほしいんだけど」
「いいぞ、こっちだ」

庭を歩く長曽祢虎徹に清光が廊下を並走する。
腕に残るぬくもりを感じながらその姿を見送った。

「ほんといい本丸だね。長谷部もいちばんに迎えてくれたり、こうして何から何までありがと」
「こちらこそあなたにお仕えできて光栄です」

長谷部の笑顔は綺麗と表現するのが似合うかな。花を見て綺麗だなと思うような品のあるものだった。


長谷部と執務室に戻れば、こんのすけが通信機器等の最終確認がちょうど済んだところだった。

「加州清光殿はご一緒ではないのですか?」
「うん、新選組のひとたちといる」
「・・・そうですか」

こんのすけと話しながら執務室の奥にある部屋に行ったのだが、長谷部が執務室の扉で立ち止まって一向にスーツケースが手元に届かないことに気が付いた。

「長谷部・・・?用事があるの?着替えたい?そしたら行ってもいいよ」
「いえ、そういうわけでは!むしろお手伝いなどあればいくらでも!」
「そうなの?そこにいるから、そういうことなのかなって思っちゃった」
「我々は基本的に執務室までの入室が許されていまして、主だからというのもありますがくるみ様は女性ですので特に大切なことですしそれがいくらお荷物を運んでいるとしても」
「わーわー!落ち着いて長谷部」

彼の両腕にとんとん触れ言葉を遮り、むしろそういう考え方まで全く辿り着かず申し訳ないと謝罪する。
かつての審神者は刀剣男士との関係に厳格な規則を設けていたようだ。いやそれが本来のあるべき形式なのかもしれないが、わたしには到底できっこない。

「本丸のやり方にわたしが慣れるって言ったけど、ちょっとだけ訂正させて。こういうとき断りとかなくていいから、それとみんなには気軽に離れに来てほしいし、相談やお茶のお誘いもうれしい。ねえそもそも、考えてみて、わたしなんかにかつての主さんと同じことできると思う?」
「それは、・・・・・・かしこまりました。皆にもそう伝えてます」
「ああ、自分が情けなくて泣ける・・・」

長谷部に理解してもらおうと咄嗟に自分で傷口に塩を塗り込んだら思った以上にじくじくと痛み、潤む目を必死におさえる。
何か言いたげなジト目のこんのすけと視線がぶつかるけれど、長谷部が心配そうに屈み顔色を窺ってきたのでそのうち見えなくなった。

「・・・主、あなたがあの加州清光に居場所をつくるように俺はあなたの想い描く居場所をそのままに提供したい」

自虐するわたしにくれた長谷部の言葉は、彼が視野広く物事を捉え理解しているからこそのものだ。

わたしは先程清光を見送って少し寂しかった。

清光にはちゃんと分かり合える仲間がいた。わたしにはどうだろう、広間での挨拶にも幻滅されてしまっているのではないか。みんな刀だった時代からかつての主たちは立派な人物だったのに、こんな女に仕えるだなんてやっぱり違うのではないか。と、不安でいっぱいになってしまっていた。

「・・・・・・はせべ、ありがとう」
「主は涙脆いのですね、この長谷部いつでも主の涙を拭えるようにいたします」

左頬に触れる長谷部の手は大きく温かい。

それに己の両の手を添えると小さな手ですねと笑っていた。

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