15


執務室の奥はプライベートルームだった。

そこへわたしが政府に頼んで持ち込んだ段ボールが山詰みにされており、清光がすごい量!と言ってる。
生涯ここで過ごすことになっても構わないと決意を固め自宅を空けてきたので、この先使うかわからないが断捨離仕切れず持ってきた物も多々ある。

また、長谷部に話を聞けば主不在となってすぐに政府によって少しリフォームされたそうだ。
時の政府御用達にその手の職人さんでもいるのかは不明だが、ここにはお風呂やトイレに簡易キッチンがあり離れだけでも暮らせそうだった。
ちなみに彼によるとかつての主は同性のためみんなと同じ大浴場を利用していたとのこと。またそこで初めて審神者が男性ということも知る。

「・・・ところで加州清光、お前の部屋はどうする?」
「ここに慣れるまで主と一緒じゃだめ?」
「わたしはかまわないけど、」

そう言いかけてはっとした。

前の加州清光はどうしていたのか。

長谷部も言葉をよく選んだうえ尋ねたのだろう。
彼がくると決まって以来ずっとその問いかけへの答えを考えて、考えて・・・。
普通なら主と同室なんてと清光がこってりとしぼられそうなのに、長谷部は実に慎重な面持ちであった。

「じゃーそれで決まりね」
「へし切長谷部殿、加州清光殿の衣類を政府より届けておいたと思うのですが」
「そちらも広間にございます」
「ぐずぐずしてごめん。全部、取りに行こっか」

当の本人はわたしたちに気付いているのか否か汲み取れぬ表情だが、寝床の決定には満足そうにしていた。



こんのすけは通信機器のチェックをするので執務室に残り、長谷部と清光と共に再び広間へ行くと先客がいた。

大和守安定。彼は正装のまま新品未開封の清光の衣類をひとつ手にしていた。
広間での集まりが終わってもなおずっとここに居たのかもしれない。
そんな彼は声を掛けてきた清光を睨みつけ、一歩下がった。

「安定?久しぶりー」
「・・・こっちはそんなに久しぶりじゃない」

わたしの清光は彼に会うのが刀の時ぶりだから懐かしみを感じて接する。しかしそれに狼狽える大和守安定。この状況はなんとなくわかる。

「あー、そっかごめんごめん」

愛嬌のある謝罪を口にし近付いていく清光にとことんペースを乱されている。
けれどこればかりは本人たちの問題で本人たちで和解して欲しかった。長谷部も同じ考えなのか口出しはせず静かに見守っている。

「お前は、清光は、本当に僕たちのことを・・・」
「うん?」
「清光は僕より前にここにいて、わからないこと全部教えてくれたのに。お前は違うってわかってるんだ。それに僕だってそっちの立場だったらかつての自分と一緒にしてほしくない。でも・・・・・・!」
「あっ」

溜まりに溜まった想いに比例した涙がせきとめられなくなり、とうとう頬を伝った。
しゃくり上げて思うように言葉も紡げなくなった事がもどかしく居てもたってもいられなくなったのか、彼は勢いよく広間を出て行ってしまった。
彼自身ではもう制御できず感情の赴くままにわんわんと泣き、それが次第に遠のき聞こえなくなっていく。

「・・・えー。まったく、面倒なやつ」

突然のつむじ風に靡かれた髪を手ぐしで整える清光は言葉と反対に顔を綻ばせている。

「まあいいや。主、一旦荷物置きに行こう」
「え、追いかけないの・・・?」
「あとで平気でしょ、俺らは似たもの同士だから。それよりなんで主が泣きそうになってるの?」
「・・・・・・」

ぎゅっと抱き寄せられ、大丈夫だよと清光が耳元で囁く。それはまるで彼自身に言い聞かせているようで胸がいたかった。

顕現したばかりの清光にはとてもつらい大試練。

「大丈夫、わたしの清光なら乗り越えられるよ」

そう言って背中にまわした掌で幼子をあやすようにすれば鼻を啜りうん、と小さくとも頑張ろうとする意志が感じられた。

[]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -