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刀剣男士が全員揃っているだけあってこの本丸はとても広いけれど、優秀な彼らによって手入れが隅々まで行き届いている。
荷ほどきもあるので個人の部屋はまた後ほどとし、とりあえず主要な屋内施設のみをへし切長谷部の案内で回っている。

厨や食糧の保管場所に関しては、広間への全員召集のため後回しにした朝食の皿洗いと昼食の準備がありごった返していると予想されるのでまた改めて時間を作ってもらうことになった。
また昼食は燭台切光忠が腕によりをかけて用意してくれるとの事で、その彼に食物アレルギーの有無を確認するよう頼まれていたへし切長谷部がそれを訊いてきた。
前代がアレルギー持ちだったのかもしれないが、本当にこの本丸はしっかりしている。

「こちらが鍛刀部屋です。しばらく使っておりませんが資材もありますし清掃も怠らずにいますのですぐにでもご使用可能です」
「今のところ揃ってるんだから主もしばらく使いそうにないね」
「まあ、そうなるのかな」

鍛刀部屋はかつての主が身体を悪くし、任務に携わらなくなる以前より鍛刀する必要がなくなり使われていないと思われる。それでも彼の言う通りきれいな状態を保っているのだ。なかなかできることではない。

「長谷部もここで顕現したの?」
「ああ」
「どのくらい前に?」
「俺は、比較的早い段階で顕現した。・・・後ほど刀帳を持って来よう。かつての主が遺した物で、この本丸での顕現順や各々の刀工や持ち主の歴史が主直々に記されている」
「へー、じゃあありがたく借りよっかな」
「ありがとう、長谷部。よかったね清光」

瞠目する彼は照れ隠しかこほんと咳払いをして当然ですと答えた。

長谷部、そう呼ぶタイミングを探っていた。
わたしは初対面相手にその相手の名前を自ら進んで呼ぶのがあまり得意ではないと思う。こう呼んで、そう言われたらその流れでスムーズに言えるのに。
当然呼ばれたら嬉しく、逆になかなか呼んでもらえないのは微かな悲しみを感じるのもわかっているが何故かさらっと行動に起こせない。

けれど、ここに来てすぐへし切長谷部はわたしを主と呼んだ。
引き継ぎと聞いて困惑していたわたしにはそれがどんなに嬉しかったことか。
昨日清光が言っていたように、刀だから主が代わる事にある程度受け入れ態勢ができているかもしれない。
ただ清光にそれを言われたときは納得できたが、『選べない』刀の刃生が一変し人の身を得てから時を重ねた彼らはどうだ。気持ちは変化しないものだろうか。と、そういった疑念に対し長谷部は間違いなく一条の活路を見出した。

「鍛刀か・・・そのときがきたら。また教えてね」
「はい、お任せを」


その後、手入れ部屋に行った。
ここも鍛刀部屋同様しばらくは使われていないようだが、やはり清潔が保たれいつでも使える状態。

政府に負荷は掛からぬよう手入れが必要となるような出陣は極力避け遠征や演練を中心に成果を挙げる最中、この本丸のものたちはどんな想いだったのだろう。


「では最後に主のお部屋へ。広間に置いたお荷物を持って参ります」
「あの!長谷部、わたしが審神者さんのお部屋を使っていいのかな」
「・・・?ええ、あなたが主なのですから。もちろん掃除もこまめにしています。その、ご心配事があれば何でもお申し付けください」
「主ー、うじうじしないよ。言いたいことはわかるけどね、長谷部だってこう言ってくれてるしそんな気にしなくても」

やはりかつての主の部屋へずかずかと上がり込むにはまだ早い気がしてならない。
かといってどこに住まうのかという問題にもなるし、何より迷惑ばかりかけさせてしまうともわかっているつもりだ。

「主の部屋ってあの離れ?」
「そうだ」
「うーん、とりあえず手ぶらで見に行ってみよ?ついでに長谷部に今朝のこと話せたらいーかなって思うんだけど」
「・・・うん」
「わかりました、このまま離れへ向かいましょう」


足どりの重たいわたしは清光の握ってくれた手で漸く離れにたどり着いた。
私物は一切無く、もはや誰か住んでいたのだろうかと思うほどの空間だった。

「・・・ここまでさっぱりしてるとは」
「かつての主は通信機器を使わなかったのでそちらの一式はこの度政府の者が設置していかれました」
「誰が任務報告や今朝の一報を?」
「よくご自身のことを『アナログ人間』とおっしゃっていました。アナログの意味は・・・詳しく解りかねないのですが我々刀同様時代にそぐわぬ老いぼれだと説明を受け、そこから自分なりに解釈しております。ですので報告書は仕上がる度前代のこんのすけが政府へと運びました。」
「アナログね、・・・わたしも正しい定義を言えない。でも長谷部の解釈は間違っていないよ。あっ、でも刀たちが時代にそぐわないっていうのは、えーと・・・」
「構いませんよ、くるみ様がお生まれになった現世での我々はとうに美術品です」

ああすみません、今朝の報告の件でしたよね。と、遠くを見たりわたしを尊びたりする彼は話を戻した。
今朝のあれは博多藤四郎からで、主とこんのすけが不在になって以来彼が端末なるものを使いこなし政府らとの通信を担っていたそうだ。

「すごいね博多、わからないときは教えてもらおうかな」
「ええ、喜ぶと思います」

まさか博多藤四郎が通信担当になっていたとは。ここの本丸はとことん頼もしい刀剣ばかりだなと感心していると、手指の神経につんとした感覚が。

「・・・?」

どうやら繋ぎっぱなしだった清光の爪紅がほんの少しだけわたしの爪の間に食い込まれたと思われる。痛いとまではいかず、その刺激にぴくりと反射現象が起こる程度だった。
しばらく長谷部と話し込んでしまったせいか清光は疎外感を感じてしまったのだろうか。
清光、そう呼んでも唇をきゅっと結びそっぽ向かれてしまう。こんな表情、顕現してから初めて見たかも。・・・正直、どうしたらいいのかわからない。

「・・・加州清光、この程度で機嫌を損ねては先が思いやられるぞ」

雲行きがあやしくなってきた離れで長谷部のため息まじりな喝が入る。

「・・・スマホならちょっと知ってるし、主俺にだって執務させてね。長谷部も教えて、ちゃんと覚える」
「・・・・・・ああ」

それにしても、先程から長谷部は清光に対して一歩引いているのではないかと。
対する清光は顕現したばかりだからと物怖じせず、特に変わりなく窺える。
ちょっと気になるところだが、今は清光のご機嫌を損ねないよう引っ張られるまま奥の部屋に移動した。

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