08


清光はミルクティーを気に入ってくれた。

紅茶は紅にお茶って書くんだよと文字を書いて説明したけれど、そこにあるのはミルク多めのミルクティーだったから白濁した飴色に彼は首を傾げているだけ。なのでストレートのままミルクを別添えで提供してあげればよかったなと反省した。当たり前を教えるのって本当に難しい。
また、初めはどちらも無糖で飲ませてみてその後少しだけ甘くさせてみた結果、どっちも好きだけどどちらかと言えば無糖派かなという答えだった。

そして説明の際に書いたものが重要書類の紐付き封筒だったことに気付くのはふたつのコップが空になる頃。







「・・・せっかく有意義な3時のおやつだったのに」
「契約書じゃなくて良かったじゃん、封筒くらい新調してもらえば」

こんのすけに泣きつき顔面蒼白のわたしをちょっとお散歩しよーよと庭に連れ出してくれたのは清光だった。
微かに塩素のにおいが漂う偽物の池に架かる橋でいまだ自らの失態に項垂れる。

「そーいや明日ってもう主の本丸を引き渡してもらえてるんでしょ?」
「・・・『紅茶』で内定取り消しされなければ」
「もー、いつまで引きずってんの。それで?主はどんな本丸にしたいの?」

どんな、か。今のわたしたちにはここが基準になってるから、ここにあったらいいのにって思ったりこれはなくていいよねって話する。
ただ、どうやらこんのすけ曰く研修用本丸は部屋によってちょっと違うらしい。政府がその審神者に合いそうなところには考慮してくれてるとのことだった。


「ね、清光はいつから目を覚ましていたの?」
「あの日だよあの日!」
「あの日?」
「えーと、おりえんてんしょん?部屋に主がきたところからぼんやりーって感じで」
「それは、・・・どうして?」

わからない、即答されてしまった。気にしたことがなく、清光にとっては自らが必要とされただけで十分のようだ。

「政府の見解では、くるみさまの霊力が僅かに注がれた形跡があったそうです。また担当の者が内定者は触れるようなことはなかったと申しておりますゆえ、政府がくるみさまを悪く言われるようなことはございません。逆に加州清光殿を実体化させるほどの力ではなかったその微量の力加減の研究に今後ご協力いただければ、とのことでした」

「・・・ええ、結構大ごとになってる」
「こーいうことってよくあんの?」
「確かに。それに今回影響あったのは清光だけかも気になる」
「あー、それなら両隣のやつかな?誰だか知らないけど、微妙に神気を感じた」
「そんなことが!政府に報告させていただきます」

嬉々とするこんのすけはこほんと咳払いをし、今回が初めてのことではなく刀剣側が顕現を頑なに拒んだため内定取り消しになった事例があると教えてくれた。

簡単に言えば相性だろうか?とにかく清光が許してくれてよかったと胸を撫で下ろせば、当然だよ!俺の主だもん!と満更でもないご様子。

「目覚めてから今日まで何日かあったけど?」
「政府の保管庫にいたよ。たまに巡回が来る程度であとはひたすら主のこと考えてたらあっという間に今日になった」
「そ、そう」

知らぬところところでこんなにも想われていただなんて、流石は加州清光だなと感心する。まあ、不自由じゃなかったのなら良かった。

「じゃあ、わたしが本丸きてからは?」

乱れ模様の石畳を濃い色だけ踏みながら歩いていた清光はなんだか寂しそうに笑う。

「ん?早く早くって。もうくるみ以外主って考えられないから、そんな泣きそうな顔してないで。こんな近くなのに声も届いてない何もできないちくしょー、って」

・・・なるほど、刀剣男士の気配がわかるこんのすけにはその苛立ちが痛いほど伝わっていたんだ。
一方は出たがりもう一方は根暗で、今更ながら彼をもっと労ろうと思った。

「あれ今、名前・・・」
「そ、まだそのときは主って呼ぶのはなーって思ってたんだ」
「初めて呼んでもらった、から・・・。ちょっとどきっとした。それでね、半分『主』って名前だと思ってきてる自分がいるの」

おかしい主でしょ、と卑屈に話す。
清光の真似をしてわたしは明るい石畳だけを踏もうとしたが早々に失敗し、普通に歩く。
清光はまだ濃い色だけを踏み続けながらこう言った。

「じゃあ出陣とかない日、非番のときはくるみって呼ぶのは・・・駄目かな」
「・・・いいよ、それなら名前を忘れないで済むね。ありがとう清光」
「どーいたしまして」

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