07


「くるみさま」

デッドスペースの鬼となり詰め込んでいたため一つ物を取り出しただけで元通りに閉まらなくなって苦戦していると、呆れて物も言えないようだったこんのすけが突如神妙な面持ちに変わりわたしを呼んだ。

「たった今、政府から入電を確認しました。書類の一読とそのお手続きをお願いします。書類は離れの執務室にございます」
「わかった」

どうにかして元通りにした荷物をまた玄関の隅に寄せ、一旦広間に寄り清光にブランケットを掛けてから離れへと向かう。


執務室にはパソコンやプリンターといった見慣れた家電、高そうなデスクやキャビネットがある。

執務室といえば、活撃本丸は執務室に限り現代らしい作りでほとんどが最先端に電子化されてこだわりの強さを感じた。花丸本丸は審神者そのものが秘められており扉の中は一切描かれてないけれど2階にある設定だ。
うちの清光がみるみるスマホを扱えるようになっていく姿を頭の片隅に置きながら考えると、本丸ごとの生活様式に感化される個性の現れは十人十色といえる。

うちの本丸は、うちの近侍は・・・。この言葉を娯楽として口にしていた頃がもう懐かしい。今では本気を出して考えねばならないのだから。



こんのすけの言う通り、書類はデスクに置かれていた。
清光が起きて誰もいないと驚くだろうから封筒ごと取ってきてちゃぶ台で作業することにした。
大体予想はつくけれどひと呼吸置いてから紐を解くと、中身は審神者内定者への本契約書が入っていた。
初期刀を顕現できたことがこんのすけ経由で確認できた政府から。
この研修本丸にはわたしたち以外いないので元々あちらに置いておき、顕現が確認でき次第執務室に入らせる流れなのだろう。
ちなみに午前中の本丸案内の際は、離れは後ほどと言われていた。

家を借りるときのようにいくつも印鑑や署名欄があって、記入漏れには細心の注意を払って手続きを進める。







ちょうど書き終わってトイレに行きたいなとペンを置いたとき、傍らで布の擦れる音がした。


「おはよう。トイレいくけどいく?」
「・・・・・・といれって?」
「お手洗い、あ、厠」
「あー、いくー・・・」

寝ぼけ眼との会話中、うっかり布巾を握らせたままだったのでそっと掌から抜いてちゃぶ台に置いた。
気持ちスローで頼りない雰囲気の清光を連れて向かったトイレは、この本丸は研修用とあって完全に現代建築で男女しっかりと分かれている。
清光はこっちわたしはあっち、そう言って分かれ用を足し手を洗っているときに気付く。お手洗いって自力で行けたのかな?と。
慌てて廊下に戻り男性用トイレの扉前で待ち構えてみると、大きな音と同時に清光の悲鳴が聞こえてきた。
緊張感が走り引き戸に手をかけた瞬間清光が飛び出してきた。

「風の力で乾かすのです」
「先言ってよ!螺貝かって!」
「あー、ハンドドライヤーね・・・」

言わずともこんのすけが付き添ってくれたらしいが、手を翳すよう言われハンドドライヤーに驚かされたと。その手はまだびしゃびしゃのままわたしに縋りつく。
わたしはハンカチを持参していたのでハンドドライヤーは使わなかった。

「使い回しでよけば」
「ありがと・・・ごめん主服濡らしちゃった・・・・・・」
「気にしてないよ、でもこんのすけも使ったことないと思うし教えるのって案外難しいことだから大目に見てあげよ?」

寝起きの清光に怒鳴られしょんぼりしているように見えるこんのすけを両手で抱き上げる。無抵抗な彼はいつもに増して小さくみえる。

「お茶か何か入れてくるから清光は先に広間で待ってて」
「はーい・・・」

清光と分かれ、抱き上げたこんのすけの毛並みを楽しみながら厨に行く。
彼の第一印象には苦手意識もあったが今はそれほどでもなく、こうして初めて近づくことに成功した。

「こんのすけのこときいてもいい?」
「はい」
「こんのすけってたくさんいるけどみんなこんのすけでしょ、それは清光たちと同じと思っていいの?」
「いいえ、付喪神ではございません。したがって本霊なるものがいて自身が分霊のひとつというわけでもなく、政府の使いであるクダギツネを統一してこんのすけと呼ばれています」
「そうなんだ、じゃあ各々容姿や性格も元から違うわけだ」
「・・・至らぬところが多く申し訳ございません」
「あっ、そう言いたかったわけじゃないんだけど。あれー、ガムシロップ・・・」
「精進いたします。あの、ガムシロップはこちらにございます」
「ほんとだ」

こんのすけに気分転換のつもりで尋ねたがますます落ち込ませてしまったかもしれない。
ミルクティーを冷たいものと温かいもの1つずつ作り、一応スティックシュガーとガムシロップも用意した。あとはこぼさないよう慎重に廊下を歩き、待たせている清光の元へ向かう。


「お待たせ清光」

戻ったら彼はちゃぶ台に広げっぱなしだった書類を眺めていた。

「おめでと」
「え?ああ、ありがとう」

書類から顔を上げお祝いの言葉を口にした。
本契約を結べたのはあなたのおかげだよ、そう言ってあげると満足そうに顔を綻ばせた。

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