2
今日は球技大会の日である。運動は嫌いではないが、決して得意でも好きでもない。つまるところ球技大会は苦手であり、もういっそサボタージュという術を考えているところである。新聞部の予定がびっしりと書かれた取材スケジュールを見る。腹痛でサボって、アンケート集計に徹しよう。補欠の私はどうせ出番はないだろうし、ここは時間を有効に使おう。
「今日って、隣のクラスに転校生来る日だよね」
「…あ、しまったどうしよ、私取材担当だったの忘れてた…!」
「ちょっと、しっかりしてよバドミ!あたしはあんたのファンで記事楽しみにしてんだから」
「すまぬさだこ…」
さっき確認したときには予定に入っていなかったこと。が、昨日言い渡されたことをすっかり忘れていた。転校生なんて珍しいから、休み時間に行っても囲まれて近づけないだろう。だからといって昼休みは球技大会の準備で他クラスの生徒が行ったらそれこそ視殺されそうだ。やっぱり次の休み時間に行くか…
ってかさだこが話降らなかったら仕事しないところだったやばい。さだこに感謝だ。…っとメールきた。新聞部の取材伝達用携帯電話を開く。新聞部はかなり優遇されていて、学校では使用禁止のケータイも例外で使えるのだ。本当に助かる。何か裏があるらしいが。
「…新聞部は球技大会の現場取材に回るので部活動派遣のため欠場…って早く言ってくださいバスケ先輩!昨日大会を思って変な緊張で眠り浅かったのに!」
「え、バドミ大会出ないの?残念」
「さだこはテニス部だろうが。活躍してこい」
「あたしのファインプレーしっかりカメラに納めてね」
「まかせろ、と言いたいところだけど、公平な取材のために他学年の方に行かなきゃ」
「そうなんだ、あーあーバドミいないとやる気失せるわー」
「…私もさだこ引き連れて行きたいわー」
相思相愛な相棒に転校生のところに行ってくる、と言って席を立った。むこうが誘ってきたから一緒に行くのかと思いきや、球技大会の作戦の最終確認に呼ばれたらしく、一人で行くことになった。もう今日は私の精神削られすぎだろう。
1-Aを覗くと、至って普通の休み時間の状態だった。つまり誰が転校生なのかわからない。囲まれてろよ転校生!顔写真なんて持ってるはずがないのでそれを頼りにしていたのに。しょうがないので人伝に聞く作戦でいこう。
「新聞部です。すみませんが転校生のごくじくんはどちらに…」
「ごくじ…?」
「あ、え?ひとやでらくんの間違いかな…このメモに読み仮名書いてなくて」
「ごくでらだ」
「え?」
「転校生はオレだ。目障りだ、失せろ」
「あ…貴方が転校生ですか!並中新聞部です、今だけでも取材を」
「うるせえうせろ」
「プロフィールだけ!」
「黙れうるせえ!面倒なんだよ!!」
「根負けはしません!新聞部なめんな!」
「あーもー!!ごくでらはやとイタリアから転校してきた!言ったから消えろ!」
「落ち着いて取材しましょう」
「チッ…」
「あ…廊下までまとわりついてたのに撒かれた…任務失敗か…やば、とりあえず連絡…」
転校生獄寺氏についてのレポートは失敗、要マーク、ちなみに名字はごくでらと読むらしい、と先輩方に一斉送信のメール。バスケ先輩から早速電話が来てお叱りをいただき、サッカー先輩は後は俺に任せろと頼もしくフォローしてくださった。
まあ先輩方もごくじと読んでいたらしいので、取材にあたって私は少しばかり貢献できたと思う。彼には睨まれたり怒鳴られたりしたけど、こんなことでへこたれるようなら記者としてやっていけない。つまり気持ちをさっぱり切り替えて球技大会の取材に向かった。
学年ごとのクラスマッチかと思えば、学年を越えてそれぞれが戦っていた。体育館では男女共にバレーに対し、グラウンドでは男子サッカー、女子テニスが行われていた。グラウンド担当になったので、それぞれ途中経過を本部で確認。お、サッカーはサッカー部キャプテンの在籍するクラスがダントツトップか。これだと優勝は確定かな。
「あ、女子…うちのクラスが一位ってどういうこと!」
「新聞部さん、お疲れさまです!女子屋外はテニス部出身が多い1-Bが僅差で一位なんですよ」
「ああ…さだこ達、女テニでメンバー固めてたもんな…」
「保健体育委員会の名に懸けて、球技大会を成功させます!」
「いい記事お願いしますね!」
「は…はい!任せてください!」
失敗したら制裁されるもんな…と悲愴に呟く実行委員の心労は無駄にさせてたまるか!と、意気込んでグラウンドを駆け巡った。
テニスコートに近づいたときに「バドミが来た!よしこれでうちら優勝できる!」と意味不明に叫んでいたさだこを私は忘れない。それに「オー!!」と呼応したクラスメートも忘れない。なんなんだ。結果、テニスの優勝は我が1-Bがいただきました。