最強少女とバレンタイン1
至天高校。
県下最大級の敷地面積を誇る有名私立高校である。
テストや模試の平均点は全国平均をはるかに上回り、古くから続く名家出身の生徒も通学するほどの名門校。
しかしこの学校が「有名私立高校」と言われる所以はそこにない。
それは、とある生徒たちの日常を見れば一目瞭然だろう。
二月十日、午前七時。俺――宮島勇士はいつも通り至天高校の校門をくぐる。
いつもの登校より早い時間だが、校門前には多くの生徒の姿が見られた。
いかにも不良です、といったような身なりの彼らは他校生のようだ。
用があるのなら手続きを済ませてさっさと中に入ればいいのだが、彼らはいっこうに校舎内に入ろうとしない。
それどころか、まるで人探しをしているかのように校門の外を眺めている。
ああ、またか――。
最近この時間に来るようになってからよく見ている光景。
彼らのお目当ての人物なら、ちょうどこの時間帯に来るはずだ。
「今日は遅いな」
「もしかしてビビってんじゃないスか?」
「さあな。でもさすがに三十人相手じゃ怖気づくか」
「もしかしたら学校サボっちまうかもな」
その人数は今や無視できないレベルにまでなっていた。
やり過ごそうと思っていたが仕方ない。方向転換し、不良グループに近寄る。
はじめは気付かれなかったものの、残りわずか五メートルのところで彼らが一斉にこちらを見る。
「おい、お前ら」
背負ってきたリュックを放る。そして静かに息を吐いて心を落ち着ける。
「委員長がお前らみたいな集団でしか行動できない奴に興味はない。それに、ここは至天高校の敷地内だ。他校生は早々に立ち去れ」
もちろんこんな言葉で奴らが手を引くわけがない。
「おう、久しぶりだな副委員長さんよ…だが俺たちが探してるのは委員長の方だ。とられたくないのはわかるが、こちとら三週間ずっと会える機会を待ってたんだよ…!」
リーダー格の男が右足で攻撃を仕掛けてきた。
この程度ならば容易に避けられる。
攻撃をかわした先には別の男がいたが、そいつの腹に思いっきり蹴りを入れる。
「お前らみたいな奴は委員長がわざわざ会うまでもない。他の生徒が来る前に俺がこの敷地から追い出してやる」
そう言ってすぐに攻撃に移れる体勢になった。
ちょうどそのとき集団の中から一人の女性の声がした。
「勇士くん、あなたの手を汚すことはないです」
男が一人二人と倒れていく。その奥に見えたのは――。
「汚れるのは、私一人で十分」
至天高校二年、美化委員会委員長の井上静だった。
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