トラファルガーは酒に弱い。なんてことを言ったらまた怒られるんだろうが、本当のことだ。
リキュールでも少し強いものを使ったら、すぐに顔が赤くなるし、目が変わる。
要するに顔に出やすいわけだ。よく喋るようになるし、いつもは隠れている感情が表に出てくる。
本人もそれは分かっているらしく、トラファルガーは付き合いで飲みに行ったりすることはほとんどない。
それに、アルコールの類がそう好きなわけでもないらしい。

そのトラファルガーが珍しく酔っ払っている。しかも怒っている、らしい。
俺が帰ってきたとき、こちらを見向きもしなかった。座らせるものかと言わんばかりにソファに寝そべって、クッションに顔を埋めている。
ちらりと見た限りでは頬が赤かった。

誰だ、こいつに酒を飲ませたのは。

今日はついさっきまでソワレで勉強してたはずだ。俺のいるカウンターから見える席に座っていたはず。
そんなときに酒なんて飲まないから、帰りに買って飲んだのか。俺用に置いてある焼酎なんか飲んだら確実に落ちてるはずだから、その可能性は除外する。

それから怒っている理由。これもさっぱり分からない。
今朝送り出したときはいつもどおりだった。それからソワレに来てからは喋っていないし、全く身に覚えがない。
とは言え、ソファ方面からのとげとげしい雰囲気は、明らかに俺に向けられていて。
そんな風にされたら頭一つ撫でることだってできやしない。


「なあ、なに怒ってんだ」
「……怒ってる!俺は怒ってるぞ!」
「や、分かってるけどよ」


酔ってるな。確実に酔ってる。
ちらりとこちらを見た藍色の瞳が据わっていた。
ソファの傍に座り込んで、もう一度なんで怒ってるんだと問いかけると、ぼそぼそと声が聞こえだした。


「ゆーすたすやが!女としゃべってた。うれしそーに!」
「客には愛想良くしねえとだめだろ」
「あと、俺んとこに注文ききにきてくれなかった!」
「今日は客が多かったからな……」
「それはー…分かってるっ、け、ど。俺の、わがままだけど」
「なんだよ。言えよ」
「めいれいすんな!」
「教えてください。な?」
「…………さびし、かった」


ちょっとだけだからな!と叫んで、またクッションに顔を埋めるトラファルガーに、笑いをこらえきれない。
なるほどな。客が多くて今日は店で構ってやらなかったのが原因だと。
仕事中だからそんなに構ってはやれないが、何かと構ってやるようにはしていたが、今日はそれができなかった。そういえば、こいつが帰るときも俺はレジにいなかったしな。
しかし、アルコールの力ってのはすごいもんだ。普段のトラファルガーなら絶対にこんなこと言わない。むしろ俺に構うなって感じだ。


まあ、構うなって言いつつ構ってほしがってるのは知ってるんだけどな。


「悪かった。今度から忙しいときは手でも振ってやるよ」
「んなはずかしーまねすんなよなー」
「じゃあ、お前にしか分かんねえようなの考えとくから」
「ほんと?」
「おう。約束な」


ソファの上に投げ出されているトラファルガーの左手を取って、小指同士をを絡ませる。
冷たくて細い指。じわりと俺の体温が移っていく。


「なんだよこれ」
「指きり。知らねえの?」
「こどもあつかいすんな!」


離されそうになる左手を両手で包んで、ついでにトラファルガーをソファから引きずりおろす。そのまま抱きしめて床に寝転んで。
アルコールの浸透した身体は、いつもより少し温かかった。




お題6:指と指を絡ませる

約束します




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