(原作寄り)


俺の海に汐はやってこないと思っていたのに。


月明かりの差し込む深夜、喉の渇きを覚えて俺は目を覚ました。
薄暗闇の中テーブルのそばまで行って、デキャンタからグラスへ水をついで飲み干す。
そのままにしておいたから少しぬるい。
部屋の中は月の光が差していてうすぼんやりとしている。ユースタス屋はカーテンを引かない。めんどくさいとかそういうことではなく、暗闇だと俺の顔が見えないから、らしい。
愛されてるなあ、なんて。柄にもなくシアワセを感じる。
おまえに出会ってから、感情の波がゆれることが多くなった。
それまではこんなことなかったのに。
だから涙が流れだしたのだって、おまえのせいなんだ。


涙は人間の持つ一番ちいさな海だ。
誰の言葉だったかは忘れたが、俺の中にずっとある言葉。
俺たちみたいな海に嫌われた能力者でも、みんな自分だけの海を持っている。
そう考えると少し慰められた気分になった。海が、好きだったから。
能力者になって、海賊になって、そのころから俺の海が満ち干くことはなくなった。
ただただ海が好きだったころの自分からはずいぶん遠いところまできてしまったが、後悔はしてない。
感情の波を押さえつけて、怒りも悲しさも薄い笑みに変えて。
自分の望みを叶えるため。


ああそれなのに。
ああそれなのに俺の海はおまえに出会ってから満ち干を繰り返している。
感情の波の押さえが利かないんだ。そんなこと今まで一度もなかったのに。
おまえがこうやって俺の近くにいて、愛してるなんて言うもんだから、今まで抑えていた波が動き出す。
おまえに引かれてあふれ出す。
だから。海はこぼれて俺の目から涙になって。





ベッドの端に座って、寝ているユースタス屋の髪にそっと触れる。
赤い赤い炎の色。暗闇の中でもすぐに分かる。
サウスブルーでは赤色は太陽の印というらしい。
生まれてきた子供の髪や目の色が赤ければ赤いほど、その子どもは太陽に愛されているのだと。
彼らにとって赤色は神聖で大切な色。いつも身の回りのどこかに赤色を持っているらしい。



それでもおまえは俺の月。
おまえを太陽だという奴は多いだろうが、俺にとっては月なんだ。
太陽だなんて、眩しすぎて俺なんか近くにいたら焼き尽くされてしまう。
それに、おまえは月の方がぴったりだ。月は太陽の光を受けて周りに注ぐ。
太陽に愛された男。その色が何よりの証拠。
俺には無い色だけど、俺にはおまえがいるから。なんてな。

ずっとなでていたら、緋色の瞳がこちらを見た。
眠たげに眉間にしわを寄せたその顔は、ラインも紅も引いてなくって、少し幼い。
いい加減に寝ろといわんばかりに掛布をまくって場所を作ってくれたから、素直にもぐりこむと逞しい腕に抱きしめられた。
太陽の下では絶対にしてやらねえけど。
今は月の時間だから、ちょっとばかり素直になってやろうじゃないか。



俺は月に引き寄せられる海なのだから。


Mr.mooright




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