(原作寄り)
薄暗闇の中で、蒼い目から涙が流れる。
今日も今日とて、薄暗闇の中で俺たちはつながりあう。
俺より小さく痩せた身体を揺さぶれば、水音と交じり合って吐息まじりの声が上がる。
その声は俺の耳に忍び寄り、脳内を侵蝕する。俺の神経はすべてがこいつに向けられてて、もっともっとと俺を駆り立てる。
そんなときだ。トラファルガーが涙をこぼすのは。
初めて見たときは正直驚いた。
柄にもなく動揺してる俺に、「嫌なわけじゃねえから続けろ」とトラファルガーは言った。
それからもう何度となく繰り返してきているこの行為だが、必ずといっていいほどヤツの両目からは涙が零れ落ちる。
蒼い、海色の瞳は見えず、涙が零れ続ける。
それでいて翌朝にはけろっとしてやがるのだからわからねえ。こんなことで泣くようなヤツじゃないのは知ってるし、俺が格別乱暴にしてるわけでもない。
コイツには言わないが、大事にしたいと思っている。
女にするようなのとは違うんだが。それでも、愛おしいから。
顔を近づけて涙ごとトラファルガーの目を舐める。塩っ辛い。
そうすると蒼い瞳が俺のほうを見て、少し笑う。色を含んで弧を描いた唇と薄く水の張った目。
最近じゃこの笑みがお気に入りだ。だからわざわざ涙を舐めて、塩っ辛さの残る口でトラファルガーに口付ける。
そうすると入墨の入った腕が俺の首に絡みついて、つながりが解けるまでもう少し。
まだかかる。俺もおまえも熱が治まらねえから。
「なんで、泣くんだ?」
一通り事が終わって、俺の隣で仰向けになってるトラファルガーに聞いてみる。
手を伸ばして眼窩に触れれば、その瞳にはもう涙はなくて目尻が少し熱を持っていた。
そのままぐるっと瞼をなでれば、やめろといわんばかりに手を払われた。
「別に泣いてねえよ。目から塩水が出てるんだ」
「世間じゃそれを泣いてるって言うんだよ」
「なんだユースタス屋、俺が悲しくて泣いてるとか気にしてんのか」
こちらに身体を向けたトラファルガーの笑みは、もういつも通りの口の端をあげた薄い笑み。
こいつの言ってることは半分くらいだけど当たっていたから、何も言えずに代わりに手を伸ばして引き寄せた。
悲しいとか辛いとかは思っていない。でも気になることは気になる。
「なんでだろうなあ。今までどんなヤツとヤったってこんなことなかったぜ。たぶん、こうなるのはユースタス屋だからだ」
俺だから?ってか俺のせいかよ。
訳が分からん顔をしていたであろう俺を見て、くくっと笑いながらトラファルガーは続けた。
「涙っていうのはな、人間の中にあるちいさな海なんだ。海ってのは月に引き寄せられて汐があるだろう?俺の涙は俺の汐さ。おまえに引き寄せられてこうなってんだ」
どうだロマンチックだろ?と、腕の中から楽しげな声がする。
こいつは時々こういうメルヘンなことを言いやがる。
いい歳した男の言うことじゃねえよと思いつつ、なんとなくそのギャップが可愛らしくて笑ってしまう。
笑うなよ、といったメルヘンな男の声はもう眠たげで、ごそごそと納まりのいい場所を探すと寝息を立て始めた。
俺の疑問は置き去りにされたが、コイツの涙は嫌いじゃないからまあいいか、なんて。
思考を手放して俺も目を閉じた。
俺は海でおまえは月。太陽だと眩しすぎるから。
tears sea
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