めずらしく早く仕事が終わったから、ユースタス屋を驚かせてやろうと思って、何にも連絡しないでうちに帰った。
たぶん、キッドと散歩に行ってなければ今は家にいる、はず。
いつもは無造作に開けるドアをそーっと慎重に開けて静かに閉める。
さて、台所かリビングか。
どうやって驚かせてやろうかと考えながら、リビングのドアが半開きになっていたので
そっと覗いてみた。
オーディオから聞こえてくる音楽、なんだか聞き覚えがある。
聞き覚えがあるっていうか、これ俺のCDじゃねえか!
オーディオセットの傍には俺のCDが二三枚置かれていて、今かかっている曲のが一番上に乗っかっていた。

「THIRD POLA STAR 」とジャケットに書かれたそれは、俺のメジャーに出る直前のアルバム。
ライブハウスでちまちま売ってたころのCDで、これは一般にも出してなかったはずだ。
インディーズ時代のはちゃんとリメイクしてしなおしてあるのもあるが、これはそうじゃない。
今でもお気に入りの曲が結構入ってる分だから、なんだか大事にしておきたくて、あの頃売っただけしか作ってない。
だから、これを持ってるやつはそうはいない、はず。
でもまさかこんなとこでお目にかかれるなんてな。
俺はCDをそっと元に戻して、その持ち主を振り返った。


「おまえの歌なんて興味ないって言ってたくせに……」


ソファでキッドと一緒にうたたねしているユースタス屋に近づいて、そうっとその髪をなでる。
こんな昔のCDを大事にしてくれてるってことは、俺の歌好きなんだ。
しかも「THIRD POLA STAR 」の下にあったのは、先週出したばっかりの「NEW WORLD」。


なんだ、おまえ俺のこと大好きなんじゃね?


じわじわと嬉しさがこみ上げてきて、目の前にあるユースタス屋の唇にそうっと口づけた。
半開きになってる間から舌を差し入れて、もっと、もっと。
起きたってかまいやしない。








うたたねなんてするつもりはなかったのに。
天気が良くて、さしあたって何もすることがなかったから、キラーに借りた雑誌でも読むかと思って、下の部屋に行ったついでにCDも何枚か持ってきた。
トラファルガーのとこには音のいいオーディオがいくつもある。聞けるのなんて一つずつなのに。
あいつがいないときはこっそりそれを使って音楽をかける。
なんであいつがいないときかって言うと、俺のよく聞くアルバムの中には、あいつのアルバムもあるから。
あいつの歌は、あいつと知り合う前から好きだった。
俺は歌声とか曲だけで好き嫌いを判断するから、ほんとに純粋にあいつの作った曲そのものが好きだ。
あいつ自身の人間性とかはこの際捨て置いて、だ。でも、好きだなんて死んでも言えねえ。
言ったら最後どういう反応が返ってくるか考えるだに恐ろしい。
だから、下の部屋にいるときも、音楽を聴くのはたいていヘッドフォンで聞いているから(トラファルガーがいつやってくるか分かったもんじゃない)たまには音のいいオーディオで、少しくらい音量を上げて聞いたっていいだろう?

でも俺はそんな甘い考えを持ったことを後悔することになる。


「…んぅ…ンン!?」
「っは、ゆーすたすやぁ、すきー」
「っン…ふ、ふざけんなテメェ!!!」



渾身の力をこめてトラファルガーに右ストレートを一発。
俺の上から文字通り吹っ飛んだ奴には見向きもせずに、あわててオーディオの電源を落としてCDを出す。
最悪だ。一番知られたくない奴に見つかるなんて。
ていうかなんでこんなに早く帰って来るんだよ!


「なんていうか…元気だな、ユースタス屋」


うずくまりながらも声をかけてくるトラファルガーの顔を直視できない。
絶対アイツは嫌な笑みを浮かべているだろうから。


「俺の歌、聞いてくれてるんだ?」
「……うるせえ」
「ていうか、俺の歌好きなんだ?」
「好きじゃねえ!これはっ、たまたま店にあったのを借りてきただけでっ…」
「『THIRD POLA STAR 』は店に下ろしてねえよ」


畜生、うまい言い訳がみつからねえ。
俺があせった頭でぐるぐる考えていると、復活したらしいトラファルガーの腕が俺の腰に回って、後ろからぎゅうと抱きしめられた。


「おまえ、ほんとは俺のこと、だぁいすきなんだろ?」


耳元でささやかれて頬に熱が集まる。
不本意だ。本当に不本意だが、俺はおまえの声で奏でられる音楽が気に入ってる。
音楽だけだけどな。
あまりにも悔しいから、振り向きざまもう一発トラファルガーにお見舞いしてやったのは言うまでもない。







忘れてください


同居人たちから家主へ17のお願い


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