いつもより早く帰ってきた俺は、いつものようにユースタス屋に抱きつこうとして固まった。


「……どうした?」


いつもと違う俺を怪訝そうにユースタス屋が見てるがそれどころじゃない。
ユースタス屋が、
泣いてる!!

いや、正しくは目に涙がたまってる。
なんで泣いてんだ誰に泣かされてってかユースタス屋は誰かに泣かされるようなやつじゃねえし俺だってまだ泣かしたことないのに!!
いやいや、落ち着け俺。
俺があんまり固まってるもんだから、さっさと着替えてこいよと言い残してユースタス屋はキッチンに消えた。
そっとあとからキッチンをのぞくと、こちらに背を向けてて表情は見えなかったが明らかに涙をぬぐってやがる。
激しく動揺した俺は自分の部屋に駆け込んでペンギンに電話した。やつの返事はこうだった。


「そりゃあんたが悪いだろ」


なんで分かる。確かに身に覚えがあるようなないような(あるといえばすごく、ある)
気はするが!


「ユースタスはお前と暮らしてて基本的に外との交流もないし、考えられる原因としては、お前が悪いしかないだろう。お前に身に覚えがあるなら謝るしかないな。正直俺はユースタスがあんたとの同居をまだ続けてくれていることの方が驚きだ」


感謝で俺のほうが泣きそうだ。今度菓子折りでも持ってくと伝えといてくれといって電話は切れた。
どうすりゃいいんだちくしょう。とりあえず落ち着いて考えろ俺。
あれか?この前仕事だからって嘘ついてキャスとキャバクラ行ったことか?でもあん時の名刺は即効捨てたし、帰る前に着替えたから匂いなんか残ってないはずだ。
それともアイツの昼寝中の顔携帯で取ったのがばれたとか?いやでもあの可愛さは犯罪だろ。
しかもキッドも一緒に寝てるってもう取るしかねえだろ!
まさかアレじゃねーよな……アレはマジでばれねえように細心の注意を払ったってのに……。
いやでも、もしかしたら妙な方向に勘違いされてんじゃ……
あれこれ考えるも身に覚えのありすぎることばかり浮かんできてどうしようもねえ。
そんなことしてたらユースタス屋の声が聞こえた。飯が出来たらしい。俺は青ざめた顔のままリビングに向かった。


「おい、どうしたんだお前。なんか顔色悪いぞ?」


ああ俺を心配してくれるなんて優しいなユースタス屋は。そんなとこも好きだってじゃなくて!


「あ、あのさ、ユースタス屋。今日なんかあったか?」
「あ?なんかってなんだよ」
「いや……、なんか悪いこととか」
「んん?あったっちゃああったなあ……。あれはマジでムカついた」
「!!」
「一瞬出て行ってやろうかと思ったぐらいだったしな。まあでも」
「ユースタス屋!!!!」


俺はものすごい勢いで床に土下座した。勢い余って頭をぶつけたような気がするがかまうか。
出て行くとか言われたらもうこっちの負けだ。謝れってペンギンも言ってたし。


「キャバクラ行ってごめんなさい!」


おいお前ほんとどうしたんだとかユースタス屋の声が聞こえるけど、俺はかまわず謝り倒した。


「あと、お前に黙って寝顔写メったことと!キッドにこの前高い猫カンやりすぎたことと!それからお前の部屋でAV見ながらベッドで一人でヤっちまってごめんなさい!」

「キャバクラはキャスが行きたいっていうからつれてってやっただけだし猫カンは俺が自分で買ったし、お前のベッド汚しそうになったからシーツ新しいのに変えといたし……、とにかく俺が全部悪かったから、もうしねえから泣くな!!出て行くなんていうな!」


そこまで一気に言ってからもう一回頭を下げる。沈黙が痛い。
ああでもこれでも許してくんなかったら俺今すぐベランダから飛び降りるかとか考えてたら、ユースタス屋が俺の前でしゃがんだ気配がして、声が聞こえた。


「なに勘違いしてんのか知らねぇけどな。別に泣いてねぇし出ていくとか思ってねぇぞ、俺は」
「え……?」


俺が恐る恐る顔を上げると、思いっきり呆れた顔をしたユースタス屋と目が合った。


「だって…涙が…」
「あ?ありゃあ玉ネギ刻んでたんだよ」


そういわれればテーブルの上にはハンバーグがのっていた。


「出て行こうかって思ったってのは……」
「そりゃ今日乗ってた電車が止まりやがってよ。暑いわ動かねえわ人は多いわでムカついたっていう」
「電車……?」


なんだよ玉ネギに電車とか、俺ぜんぜん悪くなかったじゃん。
そう思うとなんだか一気に疲れがやってきて、ユースタス屋に抱きつこうとしたら
ものすごい勢いで右ストレートをかまされた。
え、ちょ、なに。俺悪くなかったじゃん!


「それより俺はさっきの話を詳しく聞きたいんだが……」


あ、怒ってる。
この顔はいつもより数倍怖い。笑ってるけど目がぜんぜん笑ってねぇ。
涙の原因が俺じゃねえってことは、墓穴掘りまくったんじゃねえの?これ。
思わず殴られたほうの頬を押さえて後ずさる。


「キャバクラ行ったこととチビに猫カンやったことはどうでもいい。でもな、そのあとの写メとAVたあどういうことだ……?」
「いや、この前お前がキッドと寝てたのがちょー可愛かったからつい……。あっ、別にAVに興奮してたんじゃなくて、女がちょっとお前に顔似ててそんで」
「俺でンな妄想すんな!そして俺のベッド使うな!!」
「だってユースタス屋のニオイした方が興奮する」
「死ね!!」


もう一発殴られて華麗に吹っ飛ぶ俺を、キッドがユースタス屋そっくりの呆れた顔で見てた。
やっぱお前らそっくりだわ。
このあと俺の携帯は没収されて今までこっそり取ってた画像は消去されて、
一週間俺は弁当を作ってもらえなかった。




(キャバクラで妬いてくれてもいいのに……)





涙の理由




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