(原作寄り)


「俺、恋しちゃったかも」


水しぶきを上げてキャスケットが海に落ちた。俺たちは船べりに座って釣りをしてたんだが、俺の何気ない一言はやつを動揺させたらしい。
しかしおまえ、すごいリアクションだな。
今度から特技はオーバーリアクションですってことにしとけ。
ものすごい勢いで水から上がってきたキャスケットが、しずくを滴らせながら俺のほうにやってきた。


「え?え?え?せせせせんちょー今なんて言いました?」
「あーあー、おまえ、その辺ふいとかないとまた怒られるぞ」
「うっわ、やべっ…ってそうじゃなくて!今『恋しちゃった』とか言いませんでした?」
「うん、言った」
「………………………………マジすか」


ものすごく長い沈黙の後、信じられないという顔でこちらを見られる。
なんだ、俺の言ったことはそんなにおかしなことかオイ。


「なんだよ、その間」
「いやー……船長も生身の人間に興味あったのかと……」
「まあ、俺はおまえの骨格に惚れて仲間にしたのは事実だが」
「骨格!?骨格ですか!?」
「正しく言うと、大腿骨がよかった」
「……」
「安心しろ、冗談だ」


いくら俺でも身体の中までは見ることはできない。透視術なんて持ってないもんな。
そんなモンがあれば医学はもっと進歩するだろう。
冗談に聞こえないんすよ!とかキャスがなにやら言ってるがスルーだ。
あれ、俺の糸引いてねぇ?


「ちっ、逃がしたか」
「早く上げすぎなんすよ……、はいエサ。……で?」
「でって??」
「いや、で?じゃなくて!まじで恋しちゃったんすか?」


心なしかキャスの目が輝いてる気がする。ああ、こいつそういう話好きだもんな。
クルーたちの恋愛事情をよく知ってる。キャス自身だってよくそういう話するしな。
陸に上がった時だって毎回ちゃんとお相手がいる。
俺はあんまりそういうことにこだわりがないからな。でもモテるのは俺のほうがモテるけど。


「ああ、そいつに会ったときの異様な動悸と突発的赤面症に軽い呼吸困難その他血圧上昇はもう恋かな、と」
「(そんな分析のし方ってねえよ……)で、で、どんな子なんすか?可愛い子ですか?」
「んー、可愛い…?か?どっちかって言うと美人かな……?」
「おおー、さすが船長。大人の女なんすね」
「まあ歳は俺のが上っぽいけど。けっこう子どもっぽいとこあるしなー、あいつ。その辺は可愛いけど」
「ほうほう。いやあ、船長からついにこんな話を聞ける日がくるなんて……。そんで、その子のどこがいいんすか?」
「そうだなー。まず、顔は美人だろ。色が白くってー、髪の毛が赤くてきれいだし、あの赤い目玉で俺のことにらんでくるのがたまんねー」
「(目玉……)」
「すげぇ口が悪いんだけど、ちょっと優しくしてやったらちゃんとお礼言うしな。んで、恥ずかしがりやだしな!俺が会いに行ったらいねえフリすんだぜ!その辺がちょー可愛い」
「へえ(うわ、のろけてる船長の顔、はっきり言って気持ちワリぃ)」
「あとはー、あいつの持ってるコートがふわっふわですげー気持ちいいの。隙見て一回触っただけで、あとはぜんぜん触らせてくれねんだけど、あのふわふわ度はハンパねーな。お持ち帰りしたい。むしろあいつごとお持ち帰りして一夜を共に過ごしたい」
「(あれ、なんか聞いたことあるような……)」
「あの殴っても蹴っても死ななそうな体もいい。ちょっとだけバラさせてくんねーかなあ……」
「!!??いやいやそれはだめっしょ!!」


「オイ、釣れてるか?」


キャスが俺にツッコミをいれたあたりで洗濯を済ませたペンギンが通りかかった。
そういや明日からの当番は俺か。
キャスのヤツが嬉々としてペンギンに今までの話をばらしてやがる。
お、今度こそあたりが。


「なあなあペンギン、船長にもついに恋人が出来たんだぜ!」
「どうせ標本屋の瓶詰めとかそんなんだろう」
「ちげーよ!今回はマジで生身の人間らしくってさ!」
「……明日は槍が、いや、空から生首とかふってくるんじゃないのか」
「それは……否定できないかも」
「で、どこの誰なんだ船長」
「そうそう、俺もさっきからそれ聞きたかったんすよ!」


魚をバケツに放っていた俺に二人の視線が集まる。あれ、言ってなかったっけか俺。


「どこの誰って、おまえらもよく知ってんだろ。ユースタス屋」


「!!!!!!??????」


またまた水しぶきを上げてキャスが海に落っこちた。
やっぱおまえの名前は今日からオーバーリアクションキャスケットな。
ペンギンも海に落ちはしなかったが、動揺してるようだ。洗濯籠が甲板に転がってる。
心なしか手が震えているような。なんだおまえらどうした。


「せせせせせんちょー、ユースタスってあああああのさんおく越えのあのあのよく船長が絡んでるあのあの」
「三億一千五百万な」
「おい、ユースタスの胸がでかいのは鍛えてるからだぞ?間違ってもあの中に脂肪は詰まってないが」
「んなこた分かってるよ!!俺は外科医だぞ!!」


またもや水をぼたぼた滴らせながらさっきよりものすごいスピードで海から上がってきたキャスと、意味の分からんコメントをしてくるペンギンに今度は俺がツッコミを入れる。


「あいつを女だと思ったときなんて一瞬たりともねえよ!!気持ちワリぃだろ!」
「良かったまだその辺りの常識はあるようだな」
「いやいやいやペンギン!良くねえよ!男だって認識してる方がやべえよ!」
「何がやばいんだキャス。俺の愛は相手が男だろうが女だろうが関係ねぇ!!」
「あんたが愛とかいうと気持ち悪いな……」
「てめ、ペンギンコノヤロー」
「船長、なんかかっこいいこといってますけど内容が内容っすからね!!」
「おまえもンなこと言うか!そんなやつらはこうだ!」


俺はさおを放り出して二人を引っつかんで海にダイブした。
俺は能力者だから泳げねえけど、こいつらが助けてくれるから大丈夫。
こいつらが一番嫌がるイヤガラセだ。ここらの海底は浅いし、まあ大丈夫だろう。
空中でキャスの叫び声とペンギンの悪態を聞きながら、俺は笑って海に突っ込んだ。







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