(現パロ)
「おい、お前んとこのヒモ、またこっち見てるぞ」
「……無視しろ」
俺の働くサロンの前には、洒落たカフェがある。晴れた日は店先に席を出して、オープンカフェもやっている。そう、あいつにとっては好都合なことに。
「ていうかさ…、よく来るよな。マジで」
「暇してんだろ。俺らとは違って」
「いや、あの店結構流行ってるぜ?俺前に行ったことあるもん。ヒモがいねー時に」
「じゃあただのサボりだな」
今はカラーしてる客の待ち時間。夕方の予約をチェックする俺と、タオルを補充するバイトのベラミー。そして向かいのカフェにいるトラファルガー。
なにやってんだか。
「ほんと愛されてるよな、お前」
「ああ…。まあな」
「何であれがいい訳?あれか、髭生えてるからか?」
「なんでそこピンポイントだよ」
「や、なんとなく」
バカな話をして笑っていたら、タイマーが鳴った。店長は大抵昼からの重役出勤だから、予約は昼からのほうが多い。
やっぱりあの人にカットしてもらいたいから客も来るわけで。俺なんかまだまだだから、技術以外のところでもがんばらねえと。働き出してから、以前はなかった愛想といったものが身についたような気がする。
客をシャワー台に案内するときちらりと見たら、もうトラファルガーの姿はなかった。
で、家に帰ってきたらこの有様だ。ばたばたと走って俺を出迎えにやってきたトラファルガーに捕まって、ソファに押し倒されて上に乗っかられている。
やつの頭がすぐ顔の横にあって、顔は見えない。でも、ぐいぐい顔を押し付けてくるからちょっとくすぐったくて。
「で、どうしたんだ?」
「……」
「皿でも割ったのか?」
「……」
「……ヨッキュー不満か?」
「……」
無言のまま押し付けられる身体をそっと抱きしめた。こういうときは甘やかすに限る。頭と背中を優しく撫でて、相変わらず顔の横にある頭にそっと擦り寄った。
甘えられるのは嫌いじゃない。ただ、こいつが甘えてくるのはいつも唐突で訳が分からないけれど。甘やかされるのが苦手だから、甘やかす方がいいのかもしれない。
「ユースタス屋は、俺だけのなのに」
「あん?」
「俺だけのユースタス屋だっつったんだよ」
拗ねたような声色。ああ、こんなのがいいんだよなあ、俺は。
ぐしゃぐしゃと頭を撫でてやると、顔中に唇が降ってきて少し困った。トラファルガーの頭を抱え込んで、足をその痩せた身体に巻きつけて身体ごと俺から抱きついてやる。
やつにすれば少し苦しいくらい、ぎゅうぎゅうと抱きついて、少しでもなにかが伝わればいいのに。
そうしてまた、いとしいと想う
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