ましろなきみを





(未来パロ(?))
(ァルカさまへ、相互お礼とお誕生日祝いを兼ねて!)



その1、スプーンやフォークの持ち方がおかしい。
その2、靴紐がうまく結べない。
その3、釦がはめられない。
その4、金銭感覚はしっかりしているようだ。
その5、赤い色が好き。
その6、キラキラしているものが好き。


ついこの間、新しい恋人を買った。理由は簡単、男も女も周りにいるやつらに飽きてしまったから。
おれのことをなにも知らない真っ白なやつ。そんなやつが欲しくて、オークションで競り落としたのがあいつ。
ユースタス・キッド。幸運な子供。文字通り真っ白なあいつに俺がつけた名前。

今の時代、俺たち人間の心は全てデジタル化出来るようになっていて、小さなメモリーカードに集約されたそれは、耳の後ろに収納されるようになっている。
だから、金のあるやつらは誰でも自分のことをデジタル化して、身体のスペアを持っている。
自分の肉体に衰えを感じてきたら、カードを取り出して身体を取り替えればいい。身体のスペアを手に入れられる限り生きていける。
本当の意味での死を持っているのは、今となっては自分の心をデジタル化できない貧乏人だけになっちまった。とは言え、自分をデジタル化した奴らだって、自分のカードを破壊されたら終わりだ。バックアップを取っていない限り。
俺の耳の後ろにも、その小さなカードは入っている。まだ身体を取り替えたことはないが、俺のクローンは本社の地下で"製造"されているし、カードのバックアップも月に一度取っている。
ユースタス屋は、カードをリセットされた状態でオークションに出ていた。
多分身体の方はオリジナルのまま。細かな傷痕や火傷痕がある。前科はある、だろう。それもそんな小さなことじゃない。ポリスが公にできなかったようななにか。
でなけりゃ裏のオークションにしたって厳重すぎるロックのかけられたネットの奥底で取引なんかしたりしない。
なんでそんなやつが出回ったのか知らないけど、そんなことはどうでもいい。俺はただ招待されて見物してただけだった。
買うつもりなんかなかったのに、そのオークションで唯一の"ナマモノ"だったあいつを、気付けば購入してしまっていた。

ユースタス屋の過去を調べようと思えば訳はなかったが、俺はそれをしなかった。
ユースタス屋は俺のことを知らないのに、俺だけ知っているのはなんだかフェアじゃないような気がして。
ともかく、俺はユースタス屋と暮らすようになった。
カードを差し込んだユースタス屋に教えたのは、俺の名前と自分の名前。それから俺たちが恋人同士だってこと。
ユースタス屋は別段嫌がるでもなくその事実を受け入れたようだ。最初の日こそ屋敷の中をうろうろしていたが、一通り見て回ってしまうと、リビングにある大きな窓の側を自分の居場所と決めたらしく、大抵はそこにいる。物置から見つけ出してきた大きなクッションに座って、うつらうつらしたり外を眺めたりして。
俺が側にいても嫌がらないけれど、まだ俺に対してどう接したらいいのか戸惑っているみたいだ。俺から触れるのは構わないみたいだけれど。
なんだかペットを飼いはじめたみたいで可愛らしくもある。
毎朝服の釦をはめてやって、スプーンの持ち方を直してやって、口元にくっつけたままのジャムをぺろっと舐めてやる。
そのとき少しだけ頬がピンク色になるのがかわいくて、ジャム付きのトーストを出してやるのをやめない。
俺が本社に出る日は留守番だけど、それ以外はずっと一緒にいる。とは言っても、俺の別荘のあるこの星は、少しの陸地と後は海だけだから、どこにも行くところはない。
これが本当の俺と君だけの世界、ってヤツだ。

さて、件のユースタス屋は今風呂に入ってる。最近は泳ぐことを覚えて、俺に呼ばれなければ日がな一日海で泳いでる。昨日もいつの間にかネットで注文した水槽に新しい魚が泳いでた。少し大きくなったらまた海に放しているらしい。なにが楽しいんだか。
今日も朝から海で泳いできて、磯臭いから風呂に入って来いと命令したところ。


「トラファルガー」


頭から雫を滴らせながらユースタス屋がやってくる。その首に引っ掛けてあるタオルは何のためのものだと思ってるんだ。
手招きしていつものところに座らせて、頭を拭いてやる。
ふわりと甘い香りがする、ということは、ちゃんと身体も石鹸で洗ったみたいだ。
タオルを放り出して、ユースタス屋をクッションに押し倒して、その上に乗っかるようにして抱きついた。


「今日はもう海に行くのなし」
「…?おう」
「ずっとここにいること」
「了解」


目の前の白い頬に口をつけるとまた少しピンク色になった。そのうちユースタス屋からもしてほしい。
今はこの背中を撫でる手で我慢するけれども。



ましろなきみを



blue cylinderのァルカさまへ、お誕生日祝いと相互記念として送らせていただきました!
元々ァルカさんの文章が好きでこっそりリンクさせていただいてたところ、まさか張り返していただけるとは・・・!!^///^
お題は「キッドを観察するロー」でした。確かに観察はしてます…が…なんかいろいろ二人の状況とか前後関係をすっ飛ばしているので、その辺はどうぞご自由にセルフ妄想してください(お前)
うん…なんかね…ほんと雰囲気で読んでくださいって言うね…!(不親切)
ァルカさま、受け取っていただけてよかったです!これからもどうぞよろしくしてやってくださいm(_ _)m