(10000hitリクエスト!リョウさまへ)
(学パロキドロ)




「これなんかいいんじゃないっすかね!?」
「バカかお前。こんなちゃらちゃらしたやつ作れるか!」


大型書店の料理本コーナーに男子高校生が二人。しかも弁当本のコーナー。
なるべく簡単なやつがいいって言ったにもかかわらず、キャスケットが差し出してきたのはカラフルなキャラ弁の本。


「ガキじゃねえんだからな、こんなの望んでねえよ!」
「やー、でもやっぱ彼氏に作るお弁当ったらかわいいのがいいんじゃないっすか?ほら、キャプテンこのクマのキャラ好きじゃないっすか!」
「……てめぇ、まじめに選んでねえだろう」
「……バレました?」


よし、いい覚悟だ。
にやにやしているキャスに一発お見舞いして、俺は一冊の本をつかんでレジへと向かった。
タイトルは「いそがしい朝でもすぐできる!はじめてのお弁当」。
まあ、本当にすぐ出来るなんて思っちゃいないが、できるだけ簡単なほうがいいだろう。
なんせこちとら調理実習でしか料理なんてことはしたことがないんだから。



ことの起こりは一週間前。俺とユースタス屋はユースタス屋んちでDVDを見ていた。休みの日は、こうしてどちらかの家で過ごすことが多い。
普段学校でいるのとあまり変わらないじゃないかと周りには言われるが、俺もユースタス屋もこうしてるのが一番いい。
お互い人目を気にして出かけるよりも、家の中のほうが自然に振舞えるから。
それに、一緒に買い物に行くといったって、俺たちの趣味はあんまり合わないから、どうせ別行動になって2時間後に集合、とかになるんだ。
そんなのより、何もしなくても一緒の時間を過ごす方がよっぽどいい。と俺は思っている。


「あ、あれうまそう」


テレビ画面をぼんやりみていたユースタス屋が、ポツリと声を漏らした。
見ると、テレビ画面には素朴だけどおいしそうな料理が映っていて、主人公の女がそれを手際よく折り詰めに詰めているところだった。


「やっぱコーディネーターがいいと料理もうまそうだよなあ。お、あのたまごやきもうまそう」
「ふーん、そういうもんか?お前ならあれくらい作れそうだけど」
「弁当は誰かに作ってもらったほうがうまいんだよ」


ユースタス屋は料理をするのが好きで、将来は料理人になりたいと言っていた。料理屋をやっているおふくろさんの影響だろうか。
小さいころからし慣れてきただけあって、ヤツの料理はうまかったし、毎日学校に持ってくる弁当も、ユースタス屋自身のお手製だった。
俺にも何度か弁当を作ってくれたことがある。
小食気味な俺のことを考えて、少し小さな折り詰めに詰められたおかずたちは、何気ない家庭的なお惣菜だったけれどおいしくて。
ヤツの持ってくるものの半分くらいの大きさのおにぎりを握るのに苦労したと言ってたっけ。
なんとなく起き上がってユースタス屋の隣で一緒に画面を眺めた。
画面はもう次の展開に移っていて、料理は写っていなかったが、誰かに作ってもらったほうがうまいと言ったユースタス屋の顔が、なんとなく引っかかったから。
そっと隣にいるユースタス屋に身体を預けたら、いつものように優しい顔で抱きしめてくれたんだけど。


そんなこんなでそのことが数日心に引っかかってた俺は、ユースタス屋のために弁当を作ることにした。
キャラじゃねえのは自分でも痛いほど分かってる。
別にユースタス屋のよろこぶ顔が見たいとかじゃねえ。ましてや彼氏に弁当を作るなんていう乙女チックなときめきなんて微塵もねえ。
むしろ今の俺の心境は大群を迎え撃つ大阪夏の陣だ。
そこまでして弁当を作ってやる俺って健気。うん、愛だな。愛。
親を早々に台所から追い出して、まな板の前に経った俺は深呼吸を一つした。
よし、出陣。






「……ってことで弁当を作ってんだが、うまくいかねえ。なんでだ」
「……そんなことでこの深夜に電話してきたのか」
「いいだろ、どうせお前はこの時間上がりなんだから」


野菜は何とかやっつけた。やつらは茹でるだけだからな。調味料も慎重に測った結果味も問題ないだろう。
でもたまごやき。この強敵に俺の城は今にも落ちそうだ。ってかもう卵が残り少ない。
でも、どうやっても真っ黒にしかならないたまごやきは、当然俺の気に召さなくて。
でもどうやればうまくいくのかさっぱりな俺は、幼馴染のペンギンに電話した。
帰りの遅いペンギンならこんな時間でも起きているだろうし、あいつは一人暮らしして3年目とかだったから、たまごやきの作りかたくらい知ってるだろう。
一度あいつの家に押しかけて料理を出してもらったことがあったし。


「黒焦げになるってことは火が強すぎだ。しかも何回もしてるんならフライパンが熱過ぎるんだろう」
「よし分かった。それからな」
「まだあるのか」
「から揚げってどうやって揚げるんだ?」
「……初心者が揚げ物なんかするな。冷凍食品を使え」
「バカかお前。冷凍食品なんか使えるか。あいつの弁当には冷凍食品なんざ入ってねえ」
「それは慣れてるやつだからだろうが!」


電話口で数分粘った挙句、俺は電話を肩で挟んでから揚げを揚げるという離れ業をやってのけた。
ペンギンの教え方は適切で、なんとかから揚げらしきものが出来上がった。
揚げ油は冷ましてから漉せというペンギンのアドバイスもそこそこに、俺は最後の敵に立ち向かうことにする。
もうなんでこんなにがんばってるのか分からなくなってきたが、考えたら負けだ。しかも朝までにはこの散らかった台所をきれいにしておかなくてはいけない。
もう一度深呼吸した俺は、残った卵にひびを入れた。






結局徹夜紛いのことをした俺は、登校した後四限目までうつらうつらして過ごした。
ノートはあとでキャスに借りるとして、昼休みを告げるチャイムと共に、俺は教室から飛び出した。
ユースタス屋には屋上で待ってろってメールしたはずだから大丈夫とは思うが、なんとなくこの弁当を早く渡したくて急いだ。
階段を駆け上がって、鉄の扉を開ける。もうすっかり秋空になった屋上は、風が吹くと少し寒かった。
扉側の裏、ちょうど昼間は日当たりのいい位置にユースタス屋はいた。
息を切らしてる俺に、なに急いでんだって笑いかける顔を見たら、なんだか急に恥ずかしくなってしまって、無言で紙袋を差し出す。
訳がわからないといった風にぽかんとしているユースタス屋の手に紙袋を押し付けて、食え、と一言だけ。


「なにこれ。弁当?」
「……」
「俺に?」
「……あぁ」


頷いたまま顔を上げられないでいると、がさがさと弁当を取り出す音がして、いただきますと静かな声が聞こえた。
ユースタス屋が食ってる間、俺は顔を上げられなかった。今までもらうことはあってもやったことなんてなかった。
俺に弁当を作ってくれた女たちは、こんな風に緊張してたんだろうか。いや、もっと期待に目を輝かせてたような。どこからきてたんだその自信は俺にも分けてくれ!


「……うまい」


ぽつりと聞こえたその声に、俺は勢いよく顔を上げた。目の前にはユースタス屋の笑顔があって。
ああ、作ってよかったと、そう思った。
よろこぶ顔が見たいとかそんなんじゃなかったけど。でもユースタス屋の笑顔は大好きだから。
よかったって思ったんだ。




たまごやきに愛を込めて



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10000hitリクエストをしてくれたリョウさまへ!
「学パロキドロでお弁当を作るローさん」です!
わりと乙女チックなローさんてありがちだよなあっと思った結果、そこそこ器用なローさんに着地しました^^;ローさんてそこそこ器用なイメージがあるんですよね。
でもあんまり料理したことなかったら、そうすいすいとは行かないかな…と(笑)
あと、テンション高く好き好き!じゃなくて、穏やかに思いあってる二人が書きたかった、です←
リクエストにお答えできてるでしょうか^^;気に入っていただけるとうれしいですm(_ _)m
リクエストありがとうございました!!



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