「37度5分。風邪だな」
ベッドの中のユースタス屋から体温計を受け取って、一言。完璧な風邪だ。
ユースタス屋は年に一回必ず熱を出して寝込むらしい。それが今年もやってきた。
たぶん季節の変わり目で体調を崩しかかったとこに、風邪をもらうんだろう。客商売をやってるから、そりゃ菌をもらう率も高いだろうしな。
ぐったりとベッドに沈んだユースタス屋の傍に腰掛ける。
大学はここぞとばかりに自主休校した。今日がたいした授業のない日でよかった。
きゅっと鼻をつまんでやって、寝てろよと言い渡して台所に行く。氷作るのと、あと風邪のときはおかゆ……か?
去年使った土鍋を探していたら、ぺたぺたと足音がしてユースタス屋が起きてきた。どうやらトイレに行くらしい。
声をかければあーとかうーとか、意味を成さない言葉が返ってきて。
電気をつけてやるついでに、手伝ってやろうかとズボンに手をかけるフリをしたら睨まれた。
でもぜんぜん怖くない。いつもからかわれるお返し。ユースタス屋が元気だったらすぐさま倍にして返されるから。
これくらいだったら許されるだろ。
ベッドに戻ったユースタス屋に、氷枕とおかゆを持って行ってやる。
枕をクッションにして起き上がったユースタス屋の傍らに座って、ぼんやりしてるユースタス屋の手にスプーンを握らせる。
だめだ、動かない。
スプーンを取り上げて、おかゆを一さじ半開きになってる口に持って行ってやった。
ぱくり。小さく口が開いて、半分飲み込む。今度は少し少なめにすくって近づける。また、ぱくり。
「ほら、あーん、して」
「あー……ん…」
言われたとおり素直に口を開けるユースタス屋が可愛い。
普段俺がこんなことをしようもんなら、絶対からかわれる。っていうか、俺が恥ずかしすぎて普段こんなことできるか。
今は特別だから。風邪をひいたユースタス屋は、なんだか小さな子みたいでかわいい。
いつもは俺のが年下だって思うことも多いから、ちょっと優越感に浸れる。
ゆっくり時間をかけておかゆを食べさせて、薬も飲ませて。
起き上がってるユースタス屋を寝かせようとしたら、その身体が傾いて、俺にもたれかかってきた。
いつもより重たい身体をあわてて受け止める。赤く染まった頬が俺の頬に触れて、熱く湿った吐息が首筋を撫でた。
「ん……、ろ、ぉ……」
伏せられた瞼がゆっくり上がって、潤んだ瞳が俺を映す。弱い力でパーカーの袖をきゅっと握られて、ただそれだけなのに動けない。
こくりと唾を飲み込んだ音が、やけに俺の中で大きく聞こえて。
ユースタス屋の身体からずるずると力の抜けるのに気付いた俺は、あわててその身体をベッドに横たえた。
しっかり首もとまで布団をかけてやって、そそくさと部屋を出る。
ヤバイ、俺まで顔が赤い。
結局、弱ってようが弱っていまいが、いつもどおり俺はユースタス屋には敵わないんだ。
いつもどおり11
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