(ハロウィン!)
(でもいつもどおりのバカップルです←)
いつものように大学から帰ると、ダイニングテーブルにメモが乗っていた。
『今日は起きて待ってろ』
意外ときれいな字でつづられた簡潔な一言。
命令されてるのが気に食わないが、別に普段だっていつも寝ているわけじゃないから、起きていてやることにした。
ユースタス屋は時々メールではなくて、こうやって手書きのメモを残していく。
よっぽどの用事や、逆につまらない用事だとメールを使うけれど、手書きのメモの時は大抵なにか大事な用事のときが多い。
だから、多少命令口調だったとしても大目に見てやるのだ。
買い物してきたものを冷蔵庫に入れて、さっきテーブルに置いた紙袋を開ける。
中に入っているのはかぼちゃの形のクッキー。かぼちゃの皮でうまくジャック-オ-ランタンの顔が作ってある。
そう、今は10月。季節が季節なだけに、外を歩くとやたらかぼちゃちゃやこうもりの飾りが目に付く。
俺はあんまりそういうイベントに興味がないから、ハロウィンだからってなにをするわけでもない。明日、ハロウィン当日の晩飯だって、特にかぼちゃが登場することもない。
でも、いつも行くスーパーにあるケーキ屋で見つけたクッキーは思わず買ってしまった。あそこの菓子は、ユースタス屋の好物だから。
ユースタス屋の店ではこの一ヶ月はハロウィンキャンペーンで、カフェタイムのお菓子はかぼちゃのお菓子だったり、当日は従業員が全員仮装するとかいう。
恥ずかしいから絶対来るなって言われてるんだけど、こっそり見に行ってやろうと思う。ペンギンやキャスケットも連れて行けば、さすがに入れてもらえないことはないはずだ。
なんに仮装するのかは知らない。来るなって言うぐらいだから、ユースタス屋が教えてくれるわけはないし、キラー屋も店のやつらも、当日までの秘密とか言って今回の件に関しては口が堅いのだ。
どんな仮装にしたって、絶対写メってやる気満々なんだけど。
簡単に夕食を済ませたあと、ブランケットに包まって課題を広げた。
最近はもう肌寒くなってきて、ユースタス屋はしきりに炬燵を出したそうにしている。
俺は寒いのに強いから、まだ出さなくてもいいと思ってるけど、ユースタス屋は寒いのがすごく苦手だから、朝なんかはこのブランケットを頭からかぶって見送ってくれる。
家の中にいるときはずっとそうしているから、正直笑える。後ろから見たらなんかカラフルなおばけみたいだ。
でも、そうやってるからか、このブランケットからはユースタス屋の匂いがする、ような気がする。我慢できない寒さじゃないけど、一人でいる時このブランケットを使うのはそういうわけがあるから。
ユースタス屋がいたらそんなことしないけど。
ガチャリ、と玄関のドアが開いて、ユースタス屋が帰ってきた。
なにやら急いでいるらしく、俺が振り返ったときにはもう、こちらの扉を開けて中に入ってきていた。
「おかえり」
「おう、ただいま。そこ、机の上空けてくれ。それと電気消して」
ジャケットを脱ぐのもそこそこにユースタス屋が紙袋を目の前の机に乗せる。
なにか時間を気にしてるみたいで、取りあえず俺は素直に従った。
部屋の電気を消すと、真っ暗になるはずがぼんやりと明るくなった。
机の上に置かれていたのは、小さなジャック-オ-ランタンで、それが光を放っていた。
「よし、12時ジャストだな」
「なに、このために急いでたのか?」
「おう。ハロウィンなんて店だけで十分だと思ってたけど、これ作ったらなんかお前にも見せたくなったから」
明日は一日会えないからな、と言ってユースタス屋が笑った。ちらちらとろうそくの光に照らされたその顔に、ときめいたなんてのは内緒。暗いから少しくらい顔が赤くなってたって気づかれない。
ユースタス屋はケーキまで店から持って来たらしく、ろうそくの光の中でそれを食べた。なんか、ろうそくの光ってだけでいつもと違ってどきどきする。
俺の方より大きな一切れをぺろりと食べ終わったユースタス屋の腕が、俺の身体に巻きついて、ブランケットごと抱きしめられた。
「これ、使うか?」
「いいや。お前抱いてたらあったけえ」
「ほんと、寒がりだよな」
「お前は暑がりだけどな…。あ、そうだ。とりっくおあとりーと?」
ユースタス屋の手が目の前に伸びてきて、悪戯っぽい笑顔。俺がお菓子なんか用意してないと思ってるんだろう。
にやにやしているユースタス屋の腕から抜け出した俺は、若干得意げに昼間買ってきたクッキーを差し出してやった。
ユースタス屋は残念がるかと思いきや、目を輝かせてクッキーを受け取った。
かわいいんだよなあ、そういうとこが。
「なにお前、こんなの買ってたのか?」
「まあ、たまたまな」
「お、うまい。やっぱあそこの店は外れないよな」
「そりゃよかったな」
「……ってことは、これもらっちまったら"イタズラ"はなしか?」
「当たり前だろ?"お菓子をくれなきゃイタズラ"なんだからな」
してやったりと笑っていたら、今度は残念そうな顔をしてユースタス屋がまた俺を抱きしめた。そのまま体重をかけてくるから、自然と俺の身体はソファに沈んで。
偶然かわざとか押し倒されてる状態だ。首筋にユースタス屋の髪がかかって、少しくすぐったい。
「イタズラなしかよー。つまんねえの」
「ふふ、残念だったな」
「でもうまかった。ありがとな」
「っん…、いーよ。ていうかくすぐったい」
ユースタス屋の唇がそこかしこに触れる。首筋に当たったのが今は耳朶に移動して、優しく噛まれたかと思うと、舌が耳の縁をなぞった。
くすぐったい、がキモチいい、に変わる。
「なあ、"イタズラ"はなしなんじゃなかったのか?」
「"イタズラ"じゃねえよ。"アリガトウ"だ」
「礼になってねえよ、それ」
「安心しろ。すっげ気持ちよくしてやっから」
ユースタス屋が笑ったのが分かって、俺も笑う。きっといつもの優しい笑顔をしてる。
俺からもユースタス屋に腕を回して"アリガトウ"の続きを待った。
やっぱり本人がいるときは本人に限る。
trickもtreatもありません
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