(ホストパロキド)
(ホストローさん×高校生キッドくん)
送信者:トラファルガー
件名:non title
いますぐきて。ゆーすたすやがこないとおれしんじゃう。
朝から何度見たか分からないそのメールを見て、ため息を一つ。
わざと乱暴に目の前のドアを開ける。玄関に脱ぎ散らかされた革靴を蹴っ飛ばして、リビングへと足を踏み入れると、暑い中を歩いてきた自分には冷たすぎる空気。
ほとんど何もない――良く言えばシンプルな室内に家主の姿は見えなかった。一応想定通り。
来る途中のコンビニで買ってきたアイスクリームを冷凍庫に入れて、家主がいるはずの寝室へと向かった。
馬鹿でかい――たぶんキングサイズのベッド下には、これまた脱ぎ散らかされたシャツにネクタイ。商売道具のダークスーツだけが、かろうじて椅子に引っかかっていた。
ベッドの上にはサテンのシーツに包まった人影が一つ。
優しいとはいえない手つきで、シーツを引き剥がした。
「起きろ、三流ホスト」
「ん、ユースタス屋?遅い」
「むしろ来てやったことに感謝するんだな」
シーツの中から顔を出した男の名を、トラファルガー・ローと言う。一ヶ月前の夜、俺が予備校帰りに拾っちまった男。
電信柱に寄りかかって、最初は死んでんのかと思った。酒と香水の臭いを撒き散らすこいつを、こいつのマンションまでつれて帰って、仕方ないから介抱してやったら名刺をもらって。
どうやら、有名ホストクラブのホストらしい。まあ、あんな時間にあんなとこで座り込んでんだから、まともな商売のヤツじゃないとは思ってたけれど。
運悪くそのとき携帯のアドレスを控えられたらしく、それから毎日トラファルガーからメールが来るようになった。今なにしてる?とか、もうメシ食ったのか?とかそんな他愛もないこと。
そして、ときどきこうして部屋に呼ばれる。
「ユースタス屋、寒い」
「こんなに部屋冷やしてたら当たり前だろ。リモコンどこだ」
「馬鹿かお前。お前といちゃつくために温度下げてんのに、上げたら意味ないだろ」
来いよ、と腕を引っ張られてベッドに倒れこむ。褐色の腕と足が、俺の身体に絡みついて。
どきりと心臓が音を立てたのが気付かれなければいい。俺の腕はその背中に回されないで、トラファルガーの胸を押し返す。
「離せよ変態!」
「いやだ。ユースタス屋はあったかいな」
「お前が冷たすぎるんだろ!なんでなにも着てねえんだよ!」
「なあ、ユースタス屋。せっくすしよう」
一瞬、時間が止まった気がした。なんだこいつ。なに言ってんだ。
「あれ?ああ、もっとかわいい言い方のがよかったか?」
「……っつあ、なに言ってんだてめえは!」
「俺とえっちしようって言ってんの」
「しねえよ!!」
ぐいぐいと腕を突っ張って、トラファルガーとの間に隙を作ろうとするが、うまくいかない。入墨の入った腕が、しなやかな足が、俺の身体をぎゅうと抱きしめる。
やばい、やばい。心臓がさっきよりも早鐘を打って、このままじゃなにかいけないと思うのに、身体が動かない。
目の前の身体を本気で突き放せない俺の頭は、きっとどうにかしちまったんだ。あの夜色の瞳を見た一ヶ月前から。
「……かわいいな、ユースタス屋は」
「…なに言ってやがる」
「お前さあ、俺のことだいすきなんだろ?」
ふいに耳元で笑われて顔を上げれば、夜色の瞳と視線が合う。
するりと頬を撫でられて、香水が香る。
「俺がメールしたら必ず来てくれっし」
「お前が何回もメールしてくるから」
「抱きしめても嫌がんねえし」
「嫌がってんだろ……」
「……心臓、音が速い」
あと少しで触れそうになった唇を、どうやってかは覚えていないが回避して。夢中で腕の中から抜け出して部屋を飛び出す。
そのまま帰ってしまえばいいものを、寝室を出たところで扉を背にして座り込んだ。
思い知らされた、気がした。
本当は分かってる。メールをいちいち返すのも、こうやって部屋に来るのも、アイスを冷蔵庫に入れておくのも。
それからもう一つ分かっていることがある。
トラファルガーは本気じゃないってこと。
それでも?
「ユースタス屋」
しばらくして開いた背後の扉から、今度は部屋着を着たトラファルガーが顔を覗かせる。
さっきのことなんてなにもなかったかのように俺の横を通り過ぎて、台所へと消えていった。
アイス食おうぜ、なんて、暢気な声。
それでも、まだ。このままでいたいんだ。
夜に囚われる
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「路地裏にて」の茶登さんにお誕生日祝いで送らせていただいたモノです。
非常に時期外して申し訳ない><快く受け取っていただけてよかったです…。
「ロ→←←←キドでローさんが無意識に大好きなキッド」というなんとも素敵なリクエストだったんですが、これ、キッドくん無意識じゃないよね^^;;
キッドくん思春期ということで、なんかちょっと乙女チックになってしまうやら、ホストトラファルガーがいまいちえろかっこよくないという問題作です(お前)
茶登さんお誕生日おめでとうございました!今年はとっても大変な年だと思いますが、がんばってくださいね!!
かげながら応援しております(学生時代の世界史のノート送らせていただきたいくらいです)
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