(お付き合いしてすぐの二人です)
(まだ同棲前)



あれは、聞き間違いじゃないだろうか。
ユースタス屋に告白されて、それに頷いたらユースタス屋んちに連れて帰られて2日間。
2日もいるつもりじゃなかったのに、1日目に携帯を忘れるなんて、よっぽどどうかしてたに違いない。
携帯を取りに行った2日目。帰ろうとしたら、帰り待っててくれねえの?だなんて。
なんだかんだで絆されて、また一晩ユースタス屋のマンションにいた。それが昨夜。
いつまでもいたらだめだって、帰りたくなくなるからって心を決めたのに、あんなこと言うなんてずるい。


「もうお前ここに住んじまえよ」


だってそれは。
一緒に住むってことで、ずっと一緒にいるってことだろ?


はあっと、今日何回目かわからないため息。図書館で勉強していても、すぐにぼんやりしてしまう。
あの日、好きだって言ってもらって嬉しくて、勢いのままきてしまったけど、一人になるといろいろ考えてしまう。
だって、俺もユースタス屋も男で、しかも俺の方がユースタス屋より大分年下。男女の間なら年の差があったって可愛いもんだけど、男の俺じゃあ可愛くもなんともない。
しかも男同士。
俺はたぶん、ずっとユースタス屋が好きだけれど、あいつはどうだろう。
やっぱり女の方がいいって、思ったりしないだろうか。今まで付き合ってきたのはみんな年上の女だったらしいし、それを考えると俺がそれに敵うものなんてなにもない。
料理だって家事だってそんなにはできないし、女みたいに甘くも柔らかくも可愛くもない。

考え出すとどんどん悪いことばかり考えてしまう。
ユースタス屋の気持ちを知る前は、思いが伝えられないことで苦しかったけど、気持ちを知ってからはうれしいのに不安だ。
好きだって言ってもらえてうれしいのに、不安は次から次へと出てきて俺を苦しくさせる。
誰かと付き合うのって、こんなに苦しいことだったっけ?

またため息をついて、何気なく手元の携帯を確認する。
新着メール一件。送信者は―――

慌てて立ち上がって小走りに図書館を出て行く俺を、いろんな人が見ていたような気がする。でも今はそんなこと構ってられない。



『べんきょーおつかれさん。今日俺夜の仕事休みだから、南門で待ってる。無視して帰ったら一晩中いるからな』





ユースタス屋のマンション、三日目。ソワレから拝借してきたというディナープレートを二人して食べて、交代で風呂に入って、ソファに座ってテレビを見てる。
お笑いものの番組に時折ユースタス屋が笑ったけど、俺はそれどころじゃない。
このまま朝の言葉を俺が受け入れたと取られて、一緒に住むようになったら。
そうなってからユースタス屋がもし間違いだったなんて思ったら。
俺はきっとどうにかなってしまう。


「あのさ……」
「ん?なに?」
「ユースタス屋は、俺でいいのか」


俺の言葉にユースタス屋が不思議そうな顔をする。テレビを消して、ユースタス屋がこちらを向いた。
真正面から見られるのは慣れないけど、何とか見つめ返してもう一度聞いた。


「ほんとにいいのか、俺で」
「俺でいいってのは、どういうことだ?」
「ユースタス屋が付き合ったり同棲したりするのは、俺でいいのかってこと。俺は見ての通り男だし、しかもまだ学生だから家事とかしてやれることとか少ないし…。俺がお前のこと好きだったからって、それで付き合ってくれるって言うんなら」
「なに言ってんだ、お前」


俺の言葉を遮って、赤色の相貌がはたと俺を見据える。眉間にいつもより皺が寄って、これで眉があったら跳ね上がってるはず。
怒ってる。
でも、これは言っておかなきゃいけないんだ。俺のめんどくさい部分。隠していくなんてできないから。
お前のこと好きだから。


「お前、それでなんか今日神妙な顔してたのか」

ため息とともに吐き出されるユースタス屋の声。だめだ。もう顔を見てられない。
思わず俯けようとした俺の顔を、ユースタス屋の手のひらが両方からつかんでぐいと上向けさせられた。
そのまま額に唇が触れる。まぶたと頬を通って俺の唇に重なる。触れただけですぐに離れたけど、まだ距離は息がかかるほど近い。


「妙な心配して一人で不安になってんじゃねえよ。俺はお前がいいって言ったろ?」
「でも……」
「男とか年が離れてるとか、なんかできるとかできないとか、そんなの関係ねえだろ。年の差とかそんなのどこの恋人同士でもあるしよ。男同士ってのは…、まあ俺も初めてだけど、何とかなるだろ」


やれねえことねえし?と囁かれて顔が赤くなる。顔を見られるのがますます恥ずかしくて、ユースタス屋の肩口に顔を埋めたら、笑い声が聞こえた。


「どうしてもなんか心配したいってんならな、これからもっと俺のこと好きになってどうしようもなくなるってことだけ心配しとけ」


俺はお前のこともう好き過ぎてどうしようもねえけど、って。
それは俺のセリフだ、馬鹿野郎。恥ずかしげもなくぽんぽん言いやがって。

俺の頬をつかんでいた手が後ろに回って、ゆっくりと背中を撫でられる。
不安な気持ちはなくなったわけじゃないけど、こいつが傍にいてくれるなら大丈夫かも。
明日俺の荷物を取りに行くからって言うユースタス屋に、小さいけれどしっかりと頷いておいた。


明日から、ここが帰ってくる家になる。





背伸びして、君に近づきたい




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cocoa catの浜クリスさまへ、相互記念で押し付けさせていただきました!
「年の差とかいろいろ不安になるローさんを、ばかだなあってよしよしするキッドさま」というリクでした^^
リク内容が二人の過去編にぴったりだったので、ものすごい速さで書き上げて、「できたよ!」ってメールしたら、浜さんがソファから落ちたらしい…←
書くのとっても楽しかったです^^*素敵なリクエストありがとう!
これからもよろしくしてやってくださいm(_ _)m


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